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【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと  30/30

けっきょく、あおいさんとのことは、彼には気づかれなかった。あるいは本当は気づいていたけど、黙っていたのかもしれない。ぼくとの関係、あおいさんとの関係、そして三人でいる関係を尊重したのかもしれない。

大学を卒業したあと、亮介さんもあおいさんもぼくも、東京で働きはじめた。じきに、あおいさんはドバイで知り合った彼氏とは別れた。

あおいさんは迷いながらも、亮介さんと、どちららかというと恋人にちかい交際関係をしていた。そして、迷いなく、ぼくとは、どちらかというと恋人とはいえない交際関係をしていた。

ぼくはいっそう、あおいさんとの関係を悟らせないように、匂わせないように努力した。

客観的にかんがえれば、あまりに非倫理的で、歪んだ関係だとわかっていたけれども、人でなしなのも理解できるけれども、でもやはり、ぼくたちにとっては、自然なねんごろな関係だったからだ。

今ではもう、会う頻度は少なくなってしまった。あおいさんがシンガポールにいってしまったからだ。大学を卒業してちょうど三年くらい経ったころ、あおいさんは海外転勤になった。

そこから、恋人にちかい交際関係がどのような結末をむかえたかについては、二人とも教えてくれなかった。彼女の外国ではたらきたいという想いは揺らぐことはなかった。いや、揺らいだけれども揺り戻した、が正しいかもしれない。

というのは、あおいさんが、こう言ったからだ。

「この件については、ひみつよ。ひとつ言えることは、こんなわたしでも、本当につらかったってことだけよ」

 

目の前で酔いつぶれているおじさんとあおいさんとの間には、どんな顛末があったんだろうか、としばらく考えていた。するとおもむろに、亮介さんがさっきまでまったく手をつけていなかったジムビームを飲み始めた。

そうしてなぜか、陽子さんの話をはじめた。

陽子さんは今、東京を拠点に活動しているそうだ。亮介さんは彼女に何度か撮影の仕事をたのんだそうだ。陽子さんは、旦那さんと離婚したらしい。旦那さんは、インドネシアで出会った女性と結婚したらしい。

あおいさんのことでエモをこじらせていたのに、陽子さんのことも思い出させるなんて、お腹いっぱいである。そうしてもぼくもジムビームを飲むことにした。

 

鳥貴族から出たあと、交差点で、陽子さんをみかけた気がした。見知らぬ女性に彼女の像を投影しただけなのかもしれない。だが、すれ違うときに目があって、お互いを認識した感覚があった。知らない男の人といた。

「きみとぼくが今ここにいるのはカルマだからさ」

と酔いにまかせていいかけたが、心の中にとめておくことにした。

ぼくたちの人生というのは、あまりにありふれたものだけど、その一つひとつは、人にはいえない波瀾万丈があるのだな、とおもった。

ー完ー

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