【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 15/30
《6 亮介さんとあおいさん》
亮介さんのことを変人だの、頭がおかしいだの、といっているが、ぼくはけっきょくのところ、彼の世界観や感性に魅力を感じているのである。
なぜなら、ぼくという人間は、多少ひねくれているところや斜にかまえているところがあるけれど、どうしようもないくらい凡庸な人間だからである。その凡庸さ、平凡さを隠したいがために、歪んだ態度をとっているのである。
そして、亮介さんのイズムのようなものに感化されたのである。彼に感化されてから、血のにじむような努力をした結果、ぼくは平凡な人間から、斜にかまえた人間に、なんとか成長できたのである。
彼の独特の言い回しには、なかなかの中毒性があって、彼の友達たちは、なぜか彼のような話し方になってしまうことがある。そして無自覚なのである。いつの間にか「おおん」「メーン」と口にしてしまう。
そしてなぜか、彼は女友達がとても多い。おまけになぜか、みんな魅力的な容姿をしている。そんな彼女たちの口からも「おおん」ということば飛びでてくる。おそろしい。
その魅力的な人たちのなかでも、とても素敵な女性の一人に、あおいさんがいるわけである。彼のことばを借りれば、「美女人氏(びにょにんし)」とよぶ。
亮介さんとの出会いは、サークルの先輩という、ごくごくふつうのものだったということを先ほど述べた。だが、自己紹介の仕方は、やはりまともではなかった。
「ぼくは、名古屋の植民地の岐阜出身だけど、おじさんはどこ出身だい?」と亮介さんは言った。
「えー(おじさんってぼくのことでいいのかな?)奈良の五條です」とぼくは答えた。
「おおん!ぼくの元カノ氏も五條出身だよ」
「ああ、そうなんですね」
「マン!そこにいるんだぜ!」
ぼくたちの会話に気づいて、とある美女人が近づいてきた。
「なによ、そうやって紹介するのやめてくれる?」
「いやまあ、事実だし、それに円満離婚だったからいいじゃないか」
「そういうところがいやなんだからね」
「あっ、え、えっと」
とぼくはとてもあせってしまった。
「あっ、でもね、日下部くん、気にしないでね。この人はこういうところがあって、一般的にいうと、ダメなところなんだけど、わたしは、そういうところ好きだから、気にしないでね。
付き合ったこともよかったし。ただ、積極的に元カノであることをアピールされるのは、ちょっとそれは話が別かなとおもって、クギをさしたの」
場の空気が凍りかけたとおもったら、ノロけのようなものを聞かされた。じゃあ、なんでこの人たちは別れてしまったのだろうか、と疑問がわいた。
ーーー次のお話ーーー
ーーー1つ前のお話ーーー
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