【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと  25/30

ゲスでない不倫がどこにあるのか。そんな不倫があったら、ぜひ教えてほしい。ある芸能人が不倫報道で世間を賑わせてから、そのたぐいの報道にはかならず、「ゲス」ということばが頭にくる。もはや四文字熟語である「ゲス不倫」。

じぶんがまだ子供で、じぶんの親がそういうことをしたのならば、怒ったり恨んだりするかもしれないが、一人の成年男子としては、彼・彼女たちを全面的に否定することはむずかしい。

不倫に駆られた人たちと同じ情動を多かれ少なかれ、ぼくは持ち合わせてしまっているからだ。テレビをみていても、みんなで不倫をした人間を叩いているが、そのひとたち自身も、現在進行形で不倫をしているかもしれない。

その人はめずらしく、学生結婚をしていた。写真部に所属していて、これまた同じ写真部の人と結婚をした。三回生のときにひっそりと結婚をした。そのあと、彼女が二十五歳のときにぼくと出逢うことになってしまった。

結婚四年目とかそこらの話である。名前は陽子さんという。大学の先輩である。卒業生のよしみで、「研究会」のイベントで写真撮影をしてくれた。そのイベントの打ち上げでいくらかしゃべり、フェイスブックの友達になった。

そのあと、飲みにさそわれ、酔ったいきおいで、ぼくのうちで、合戦が行われた。ぼくの初陣は、百戦錬磨が相手だった。ぼくが夢みていたのは、じぶんとおなじように初陣の女人と、お互いの未経験さを補いながら、二人三脚で成長するというストーリーだった。まったく想定外のできごとであった。

ぼくと陽子さんでやったことは、立派な不倫である。立派はおかしいから、明らかな不倫であると訂正しておく。じつは、夫の彼のこともよく知っているが、不思議と罪悪感はわかなかった。

ただ、ぼくは彼女とねんごろになりたかったのだ。それ以上でもそれ以下でもない。法律とか道徳とかどうでもよかった。彼女といっしょに合戦をしたかった。陽子さんのことは、一人の人間としても好きだったが、夫から奪ってやろうとかではなかった。


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