【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 7/30
《4 亮介さんと丸田屋のラーメン》
丸田屋のラーメンは、とんこつしょうゆラーメンである。スープに独特のくさみがあり、メンマとかまぼこが入っているのが特徴である。
とりたてて美味しいわけではないが、大盛りが無料ということで、腹を空かせた大学生には重宝されている。
その日の亮介さんの様子はいつも以上に不自然だった。
「亮介さん、どうして麺をまるごと残して、スープ飲んじゃったんですか?」
「まーん。よく聞いてくれた。きょうはラーメンをたべたいというより、スープが飲みたかったのだ。ほれ、これはお主の替え玉じゃ」
といって、余った麺をぼくに渡した。
「ありがとうございます。じゃあ麺いただきますね」
「お主、どうしてわしがスープだけを飲みたいわけを聞かないのじゃ。なにかもっと深いわけがあると気になるのが人間の性じゃろうが」
「・・・(なんで、きょうはじいさんみたいな話し方なんだろう?)」
「昨日わしは、とある理由があって、たいそう酒を飲んでいた。それは相当な量じゃった。その結果、二日酔いになり、塩気のあるものをたべたくなった。
というか、ラーメンがたべたくなった。ところが、麺をたべきれるほどの食欲はなかったのじゃ。しかしそれにしてもスープが飲みたかった。
ただ、一人で丸太屋にきて、麺をたべずにスープだけを飲むという所業を、繊細なわしには到底できない。道づれがほしかったのじゃ。そうやって、きみが選ばれたというわけじゃよ」
「・・・(やっぱり意味がわからない)」
「そろそろじいさんの話し方やめてもいいかな?」
と亮介さんは言った。
「飽きたんですね」
「うん。それでだな、きみを選んだ理由というのは、スープすすりにつきあわせただけじゃない。わかるだろう?あおいの件だ。彼女は今、ドバイにいる。ぼくとしては、白黒つけたいわけだ。シロナガスクジラ」
「なにがいいんたいんですか?」
ちょっとイラッとしてしまった。
「そうだな、きみとドバイにいこうとおもう」
「ぼくがついていってもいいんですか?」
「一人でいくのはさみしいし、一対一であおいと向き合う自信は、今のぼくにはない。死んでしまう。いいすぎた。泣きそうになる。いや、間違いなく泣く」
そうしてぼくは、亮介さんと旅に出ることになった。彼にはいえないけれど、ぼくはぼくなりの理由で、あおいさんがいなくなって寂しかった。
彼に同行するのは我ながら、なかなか図太い神経をしてるなとおもった。
ーーー次のお話ーーー
ーーー1つ前のお話ーーー
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