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電車で隣に座ってきたのをいいことに話しかけてくる婆さん

他人に気安く話しかける人がいる。

駅で人を待っている時もそうだし、飛行機で隣の席になっただけでもそうだ。別になんという話でもないのに、用もないのになぜ話しかけてくるのか。

比較的、高齢者にこの傾向が強い。
あるいは、都会よりも田舎で、この傾向が強い。

個人的な思い出としては、一つある。

高校生のときに、部活の大会で電車に乗っていたときのことだ。僕が所属していた部活は同好会だった。なので学校からあまり支援の手は差し伸べられない。

そういった事情から、顧問は特急ですら3時間かかるところまでの移動を鈍行でいくという決断をした。たしか6時間くらいかけた。

ど田舎のローカル線。平日の昼間。山の中。二両編成。乗客が12人ほど。そのうち9人は我々のチームだった。ということで3人ほどしか実質乗っていない。

みんな高齢者だった。もう10年くらい前になるから、その当時の乗客は全員死んでいるかもしれない。時の流れは恐ろしい。

そこで僕の隣に座っていたおばあさんが話しかけてきた。花を新聞紙に包んでいたような気がする。いや、ビニール袋に野菜を詰め込んでいたかもしれない。いずれにしても典型的な田舎的な電車の乗車スタイルだった。

「どこから来たんなえ?」「いくつなんよ?」みたいな話をされた。そこからありとあらゆる取り留めのない話をされた。当時の僕は偏差値教育まっただ中。参考書をみて勉強したかった。

正直めんどくさいと思ってしまった。テキトーに話を合わせていた。

僕の気持ちが伝わったのか、話したいことを話せたからか、10分もすれば、おばあさんも黙ってしまい、真顔に戻った。

彼女が途中の駅で降りていくときに、何か話しかけられるのか、と緊張をしていたが何もなかった。

ただ、降りていく後ろ姿はじっと見つめていた。

今なら喜んで話を聞くのだが。毎日なにを思って生活をしているのか、何に対して不満があるのか、死にたいしてどういう気持ちでいるのか、自分の人生についてどのような感想を持っているのか、そういう話を聞き出したい。

こんな形で、ちょっとその場に居合わせ人と、ちょっとした会話をするという昔の日本にあった雰囲気は失われているような気がする。

他人にできるだけかまってくれな、と。今の日本にはそうした雰囲気がある。

ときどき、こんな感じで、なんでもなく他者と話しかけたいという衝動に駆られることがある。だが、雰囲気の均衡を破る勇気は、今の僕にはない。

時代はかわってしまったんだな、と。

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