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【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと  29/30

そうやって、他人のしあわせをひがんでいるうちに、ぼくは三十歳をむかえた。実は、ぼくはここ数年くらい東京がオリンピックにわいている間、みんなを沸かせようと努力する側として働いていた。

要は、オリンピックの設営や運営のいくらかを担当していた。ほとんど休みがなく、かかりっきりだった。わずかながらの休みがあるときは、丸太のように家で寝ていた。  

日本の命運がかかっているので、関係者のだれもが真剣だった分、意思決定が遅れがちだった。その結果、納期がせまってくるというか、オリンピック開催までの時間がせまってしまい、けっこうな無理をする必要があった。

奴隷のように働き、国家の命運をかかったイベントは、なんとか開催はできた。しかし、そのあと、ぼくは体調をくずし、半年間の休職をよぎなくされた。  

復職のしたあと、しばらくたってから、亮介さんが快気祝いをしてくれることになった。亮介さんとは一年ぶりくらいに会う。最後にあったのは、あおいさんがシンガポールから帰国したときだった。

「ぼくはきみのことを一生、思い出しながら生きていくんだろうね」という亮介さんの女々しいおことばが、とても印象的だった。

彼の住む神保町にむかい、改札をとおると、亮介さんがいた。

「メーン」

「どうも、亮介さんおひさしぶりです」

「元気だったかい?」

「元気に、おうちで引きこもってましたよ。亮介さんもすこし痩せましたか?」

「まーん。そりゃストレスにやられているに決まってるやないか」

「現代社会ですね」


ーーー次のお話ーーー

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