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乙一監督・脚本の映画「シライサン」(ネタバレあり)

新宿ピカデリーにて鑑賞。ほぼ満員でした。少し見渡した感じだと普段小説などを読まなそうな人も多くいたのがすこし意外でした。

自分は乙一さんの大ファンです。最初に乙一作品に出会ったのは中学生ころで、「夏と花火と私の死体」を読んで一発でハマりました。そこから「暗黒童話」「失われる物語」「Zoo」「GOTH」など新刊が出るたび追って来ました。「Zoo」の映画版も映画館では観ることはできませんでしたが、10年くらい前にレンタルDVDで鑑賞済みです。もしろん、シライサンも読了済みとう状態で鑑賞してしてきました。作品の中ではいわゆる黒乙一と呼ばれる各品が好きで読んだ後のなんとも言えない後味の悪さが好きです。また作中の多くの主人公は感情表現に乏しくある意味冷静に状況を理解している感じも好みです。

今回の映画「シライサン」の感想はホラー作品としては非常に良い作品だと思いましたが、乙一作品としては物足りなかったです。

まずホラー部分についてです。作品内では電灯がちらつくとシライサンが現れるという表現になっており、何かのタイミングで電灯がちらつくといつ現れるのかという緊張感がひしひしと伝わってきました。また目をそらすと近づいてくるという設定も映画向きの設定で小説よりも恐怖感を感じました。

次に乙一作品部分についてですが、映画版のシライサンは小説版とは設定が異なり目隠し村の伝承部分のストーリーが大幅にカットされていました。そのため小説版では記者の妻、間宮冬美が非常に重要なキーパーソンになるのですが、映画版では単なる被害者候補の一人という扱いになっていました。この部分が非常に物足りなさを感じる部分でした。

シライサンは乙一作品ではよく見られるAと思っていた人はBでしたという成り代わりがテーマの一部となっていて、作品内でもこの部分が特有の後味の悪さを出す部分になっていました。もちろん直接的な表現はありませんが、小説内では親戚の子供の描写やミブと顔が似ているなどの表現によってそれとなく推理可能な情報が散りばめられていました。他の作品だと成り代わり自体が話しの中心になっている「カリザとヨーコ」、人の形をした石に囲まれたいに家に迷い込んでしまう「石の目」、「GOTH 夜の章」の記録という話が近いと思います。どの作品もうまい文章表現によって最後の最後まで真相に気づけず、気づいたあとの後味の悪さが残るものでした。そしてある意味この後味の悪さを乙一らしさと捉えている自分にとってはこの映画化が物足りないものだと感じました。

最後ですがJホラーとしては非常に出来がよく、電灯のチラツキや顔の半分が影で隠れるという描写からシライサンが現れるまでの緊張感は映画でないと味わえないものだったのでホラー好きであれば十分に楽しめる作品だと思います。

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