仕事。

若い頃は、信じていなかった世界がある。ただ大袈裟な話を自慢をしている大人達がいると、それだけを思っていた。みんな寝ぼけていると思っていた。

だけど、仕事を好きになればなるほど、その世界が少しずつ見えてくる。でも、完全には見えていなくて、仕事も給料袋もでかくなる夢の舞台があるのかもしれないと、そう思うようになる。


それから何年経ったのか。いつこの眼がその世界を捉えたのかはわからない。あの頃不思議に思っていた世界まで来ている。若い人達と話して眼を見ていると、あの頃の自分が感じていたことを思い出す。きっと同じような眼をしていたと思う。

でも、まだ確実に上の世界があるとわかっていたから、満足している場合じゃないと言い聞かせていた。風呂敷広げ名人も山盛りいるけど、まだまだ上で暮らしている社会人がごろごろといることはわかっていた。



そうして、大手会社までやってきた。

自信はある。知識も経験も負けていない。

でも、今の僕にはこの世界の家賃が高過ぎる。挫けそうな自分を支えているのが精一杯で、最近は毎日吐いてる。プレッシャーかな…しんどいのに全然眠れない…。

入社してすぐ、トップクラスのチームに所属する。今度は下のクラスを理想としてしまうし、脳がそのステージを求めている。ずっと向こうにある入り口付近の机をここから眺めている。



昔、誰かに言われた言葉を思い出す。


何をやってもすぐに80点を出せる器用貧乏な俺達は、100点を出せない。そして世の中には、時々200点でも1000点でも出す奴がいる。勝ち負けではなく、役割というものがある。


今更、痛いくらい刺さる。




パソコンというボタンいっぱいの機械にアレルギーがある。なのに、会社にいる時はいつも目の前にそいつがいる。休憩中や会議中、社内での商談の時もそいつが僕の目の前にいる。

昭和丸出しアナログ野郎がこいつと仲良くなれるのだろうか…仲良くなればまた世界が変わるのだろうか。

「どうぞ」

そいつと喧嘩して疲れが出ていたのか、事務の人がコーヒーを淹れてくれる。

「あ、ありがとうございます」

ホットコーヒーが紙コップに入っている。
それはいい。そこまではいい。

謎の蓋がついている…。

マクドナルドでもスターバックスでも見たことがある。でも、飲み方がわからない。飲んだことがない。確か、蓋のちっちゃい穴から飲めるはずだ。

「これって吸うの?」

誰にも聞けない。聞けるわけがない。紙コップの蓋にまでいじめられている。

そして、ちゃんとちょっとだけこぼす…。


会社の流れに身体を馴染ませるように、会社のシステムと脳を正しく繋ぐように、慎重に進めていることもある中で、毎日いろんな人達と名刺交換を繰り返す。こんなペースで名刺が減っていくのは初めてだ。

そして、あの頃見ていた上の世界の人ばかりだ。


僕はというと、仕事ができる人の顔真似や声真似だけが上手になっているというだけ。

早過ぎたのか。
いや、ここは僕がいる世界ではないのか…?


そう思うとまた吐きそうになる。


え?弱音?

あのね、弱音じゃねーよ。

いつの日かね、あの頃の自分はとても可愛かったなって振り返りたいから、それを書いてるだけ。



負けるかちくしょう。俺はあの俺やぞ。

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