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恋文届く、

ある朝、凡内のスマホに白市から動画が届いた。二人はしばらく会えずにいて、その運命のことは最初から二人共わかっていた。

夜中のラーメン屋の灯りも、ラーメンの湯気もそのぬくもりも、そんな何気ない光景を、二人は同じように特別な包装をしてその心に思い出を残している。


寒い部屋で眠る凡内は、寒さのあまり布団から顔どころか手を出すことも嫌がっていた。ようやくその手を伸ばし、スマホの冷たさを感じられないほど冷えた手でスマホを取ると、まるで甲羅に引っ込む亀のように布団の中へ再び戻った。

暗闇の掛け布団の中、照らされた鼻や指先と共に画面を見ていた。そして、白市から届いた動画を再生する。


開かれたコミックが映っていた。何度か話を聞いたことがある漫画だったが、興味を持たなかった凡内はほとんど何も覚えていなかった。

白市はセリフを読み上げることもなく、少しずつページをめくる。小さな手でスマホを抱えて撮影し、もう片方の手でコミックを開き、ゆっくりとめくっていく。

白市の白い手が映ると、凡内はなんだか切なくて泣きそうになった。

でも、途中でスマホを落としたり上手くページがめくれなかったり、途中からピンボケを気にすることもなくまるで一人読み進める白市に、らしさ愛しさを感じて、やがてその気持ちが熱い涙に変わる。

会いたいと、凡内は想った。いや、本当はずっと前からそう想っていた。

動画を見終わった頃、白市から別の動画が届いていた。今度は絵本が映っていた。

コミックとは違い一度開くと閉じることがない絵本を床に置き、白市はまるで子供に読み聞かせるように朗読を始める。ページをめくる度に白市の指が映り、その恋心を熱くさせた。

きっと、何度も読んだことがあるのだろうと凡内は思った。1ページ1ページ書いてある文字ではなく、次のページをまるで先読みしているような、そんなネタバラシ間違いを数回繰り返していた。

「はい、おしまい。また読もうねー」

白市が最後にそう言うと、凡内は慌てて返事のメッセージを送る。

「あのね、もう読まなくていいよ。あと、ありがとう」

会えない日は、会えなくても。
また必ず会えるから。

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