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【一日一捨】 リステリン

道下君という年下の知人がいる。友人と呼んでいいのかどうかはわからない。道下君はそこそこ名のある企業に勤めていて、イケメンで女の子にモテて、まあまあチャラい。僕とは正反対の性格だし、年もだいぶ離れているけれど、なんとなく気が合い、道下君も僕に懐いてくれて、ときどき一緒に飲んだりしている。たまにうちに来ることもある。去年の末にもわりと遅い時間に「近くで飲んでました。今から行ってもいいですか?」と突然LINEがあり、うちに来た。

道下君、その日はアプリで会った女の子とデートだったらしい。1軒目で盛り上がったので、2軒目はうちの近くにあるバーで飲んで、そのままラブホに流れるつもりだったけれど、女の子は帰ってしまったという。冷蔵庫にあった缶ビールを開け、何がいけなかったのかというような話をひとしきりして、「また今度ゆっくり飲みましょう」と笑い、道下君は帰っていった。翌朝、リステリンがリビングの床に転がっていた。道下君の忘れ物だ。コンビニのテープが貼ってある。あとで聞いたら、1軒目が盛り上がったので2軒目のバーへ行く前にこっそり買って、バーを出る前にトイレでうがいをしたのだとか。
「ラブホに行っちゃえばリステリンでも歯ブラシでもなんでもあるのに?」
「ラブホ行くとしても、その前にまずはキスするじゃないですか」
チャラいくせにそういうところは意外と神経質というか、ちゃんと気を遣ってるいのだなとちょっと感心した。リステリンはあげますと言われたので、その後しばらく洗面台の鏡の後ろに入れっぱなしだったけど、僕は使わない。刺激が強すぎて苦手だ。捨てる。

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