見出し画像

【一日一捨】 朱肉

かなり昔のことだけど、婚活パーティーに行ったときのこと。30対30くらいの大人数のパーティーで、参加費用は女性5百円、男性5千円。たぶん女性はサクラも多かったんじゃないかな。あんまりやる気がなさそうなひとや、会社帰りに友達同士ぶらっと立ち寄った感じのひとが多かった。

そんな中にひとり、ちょっと変わった感じの女性がいた。どんな話の流れだったか忘れたけど、ナンシー関の話題になった。ナンシー関といえば、当時もうすでに亡くなっていたけれど、消しゴム版画で有名な辛口コラムニストだ。婚活パーティーで、普通はナンシー関の話はしないと思う。だいたいは当たり障りのない話題だ。そんな中、よりにもよってナンシー関。なんというサブカル。しかも、自分でも消しゴム版画を彫ったりしてるという。すごい。この人だ!って勝手にひとり盛り上がったのだけど、最後に彼女とカップルになったのは、なんかいかにもヤリ手営業マン風のサブカルとは対極の体育会系っぽい男性だった。何故だ。

でも、それがきっかけになって、ふと僕も消しゴム版画をやってみようかなと思った。子供の頃から手先は器用で図工も得意だったし。さっそく書店の文具コーナーで消しゴム版画セットを買ってきて彫ってみたけど、思いのほか難しくて、どうにも上手く作れない。いくつか彫ったけど、あまりに下手過ぎて恥ずかしくなり、全部捨つしまってた。そして一緒に買った朱肉だけが残った。
朱肉は、請求書を出すときの印鑑を捺すのに使ったりもしていたけれど、それも電子印鑑になって久しい。朱肉の出番もなくなった。捨てる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?