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三日月ファストパス【毎週ショートショートnote】

毎晩、月に向かって願い続けた。

望む場所に行けますように。
そこで私が最高に輝けますように。

ほのかに照らしてくれる真ん丸な夜も、頼りなく欠けていて心細い夜も、姿が見えずに不安な夜も、私は目を閉じて祈っていた。

月の形が毎日変わっていくように、私の人生も少しずつ変化し始めた。

できなかったことができるようになったんじゃなくて、今までやっていなかったことをやりたいと思えるようになった。

毎晩、月に向かって感謝し続けた。

願いを聞いてくれてありがとう。
これからも支えてください。

私が行きたかった場所には果てしなく長い行列ができていた。

先頭の人から順に中に入れるのなら平等だが、そうではなかった。

前の方に並んでいたのに後ろの誰かに抜かされたり、待ちきれずに列から離脱したりする人が多くいた。

私はその人たちの間をするすると通り抜け、あっという間に入口の前まできた。

後ろを振り返ると、口を歪めている人もいるが、多くの人は頷きながら拍手をしてくれている。

私はみんなに深くお辞儀をしてから、思いっきりドアを開いた。

今夜は三日月。
もう頼りなくはない。