満月ガスとバス【毎週ショートショートnote】
満月の夜のことだった。
大勢の客を乗せて運行していたバスが急に動かなくなった。
原因はガス欠だ。
昨日、運転手がうっかり給油し忘れたのだ。
道の半分をでんと塞ぐ大きなバス。
運転手と乗客は、「大変だ!」と言ってバスを降りた。
「せーの!」
彼らはバスを後ろから懸命に押した。
みんなで呼吸を合わせて、バスを押す腕に全体重をかけると、車体はよちよちと動き出した。
「ウォー!」
彼らは雄叫びをあげた。
するとどんどん力がみなぎってきた。
タイヤがくるくると回転し、バスの進むスピードはどんどん早まっていった。
次のバス停で待っていた客も合流し、さらにパワーアップ。
もはや速度は普通の車と変わらない。
しばらく先にガソリンスタンドが見えてきた。
もう少しだ、これで給油ができるぞ。
彼らはすっかり毛むくじゃらになった腕にさらに力を入れた。
そしてようやくガソリンスタンドに到着した。
「ウォー!!」
彼らは鋭い牙をむき、満月に向かって咆哮していた。