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「まぁるい日本 国家安全保障(ビジョン2100)」No10~Ⅱ-1:国家安全保障戦略(その1)

■全般

安全保障は、“永遠の国益”を保障するための努力である。
大きな揺れが生じる可能性のある政策的な目標を国益として、安全保障の規範に置くべきではない。

第一項で取り上げた安全保障の「考察の前提及び基軸とする視点」は、日本が現在の位置にある限り背負う、宿命とでも言うべき地政学的条件と国家目標によって方向づけられる。

我が国が置かれた地政学的条件下で国家目標を実現するには、二つの課題を解決しなければならない。

一つ目の課題は、大陸周縁部にある海洋国(リムランド)として、大陸からの脅威に如何に対抗していくか。
圧倒的な力を持つ強大な大陸国の出現を阻止することと、海洋国との連携を強くして戦略的縦深を確保することが目標になる。

二つ目の課題は、勢力の均衡を保つことである。
平和で安定的な国際秩序の恩恵を受けて繁栄し、確固とした地位を築いている我が国にとって有利な国際環境を維持し、国際秩序を軍事力によって覆そうとする国を出現させないことである。
当然、軍事力が行使されなくても、激しい平和的競争は続けられているのだから、より有利な国際秩序を形成する積極的努力なくして、国際社会で名誉ある地位を得て経済的、文化的に繁栄、発展するという国家目標を実現することはままならない。
この二つの課題が、安全保障環境を分析する視点であり、この課題を克服する方策が、国家安全保障戦略である。

第二項の安全保障環境では、国外情勢と国内情勢において、国家安全保障戦略を考察する際の考慮要件を列挙した。

第三項の国家安全保障戦略では、安全保障の基軸が日米同盟にあることを大前提として、防衛構想を記述した。

日米関係は、次章に記述した。

次いで、日本経済に直接的な影響を与える戦略的重要地域の安定化を如何に図るか、世界経済の中心になることが予想されているシーレーン周辺国から中東に至る地域を焦点とした地域の安定が不可欠であることを記述した。
我が国の安全保障に影響を及ぼす地域主要国に対しては、米国と連携しつつ、防衛交流や防衛協力の拡大を通じて、友好関係を準同盟国と言える関係にまで強化していくことを目標とした。
最終目標は、日本からインド、パキスタンまでを含む広域の多国間安全保障体制を構築することである。
この際、我が国独自の努力として、長期的視野で、指導者層から草の根レベルまでの人材交流を拡大していく意義は大きい。

第四項の国家の危機管理機能では、国家安全保障上の視点から中央行政組織の改革・再編の必要性を述べ、具体的な内容は、第Ⅲ部の「統治機構」の項に記述した。

第五項の領土法、領海法の整備、第六項の国土開発では、国土保全に言及した。
一つは、国土の領域について、日本人自身から、如何にも日本の主張に疑義があるかのような議論が生まれて政府の主張に疑義や誤解を生じさせることがないよう、領土法と領海法などを整備し、その論拠を明確に宣言する。
もう一つは、国土開発について、地政学的条件を考慮して国境地域の統治を進めることに加えて、地学的条件を考慮する。
世界有数の地震地帯の上に存在している人口周密な我が国が、巨大地震によって一挙に国家機能を損なうことがないよう、国家百年の計をもって国家機能へのリスクを分散するように都市を再配置する。
今後、五十年以上続く人口減少期は、国土再開発のまたとない好機になる。
国土及び都市の強靱性を高めることは、安全保障基盤の強化になる。

最後に第七項で、国家防衛の基盤となる重要な要素として、民間防衛の充実と国民の精神基盤の強化、国民の育成、加えて、国際標準(国際法)下の行動、宇宙空間利用技術に言及した。

ここで述べた考え方は、特定国の封じ込めや敵対心を煽ることを目的としているのではない。
軍事力を諸悪の根源のように見て、それを保有する国を邪悪な意図を有するものだと決めつける偏狭な立場ではない。
自らの軍事的な問題解決能力の欠如から生じている問題を、いかにも他国の軍事力が原因で問題が生じているかのように責任転嫁してはならない。

軍事に係る問題をタブー視することなく前向きにとらえ、我が国の安全保障を万全の態勢にして、平和的手段によって競争ができる安定した国際社会を作ることを提言している。

すべての国は、自分の国の現在も未来も、自分の意志で決める権利と自由を持っている。
自分たちが安全保障環境をどのように考え何をしようとしているのか。
安全保障に関する意図や考え方を明らかにして、論理的で一貫性のある政策と行動をとることは国際社会での信頼につながる。

我が国は、ロシアと中国という大陸国に接してはいるものの、四面環海という安全保障上、極めて恵まれた地政学的条件下に置かれている。
それにも関わらず、あまりにも自助努力が不足していて、強大な大陸国の軍事的影響力を排除する自信を持てるだけの防衛力を持っていない。
国益に関わるリスクや安全保障を考えずに、経済発展に血道を挙げてきた。世界中に権益を拡大している。海外に発展すればするほど、多くの不安定要因、不確実要因が生まれるのだが、自国民の生命財産を保護するための処置、対策をとろうとしない。

自分自身が最終的な国の命運の鍵を握るのだという覚悟に欠ける。
憲法を理由にして、具体的な議論をしない。対策、処置が後手に回り、主体性のなさが心理的な不安が増大し、他国に対する過度な依存心が生んでいる。
自国の軍事的対応能力に対する確たる自信が持てない弱さゆえに、軍事音痴の様相を呈したり、時として諸外国の軍事的な活動に過敏な反応をしたり、情報能力が低いがゆえに、論理性に欠けた情緒的な発言をしてみたり、根拠のない揺れ幅の大きな反応をしたりしている。
こういった自分自身への自信の無さが、明確な意思表示や自己主張を控えさせ、それが、日本の国の顔が見えない原因の一つになっている。必ずしも、日本人の特性によって、控えめな態度をとっているのではない。

軍事力や兵器そのものに攻撃的なものも防衛的なものもない。良いも悪いもない。それを保有する人や国、日本も含めて、国の指導者がどのような意図をもってどう使うのか、詰まるところ、人が問題なのである。
軍事を忌諱して、過敏な反応を示したり、軍事について話し合うことを拒否したりする硬直的な姿勢の方が、諸外国の理解を得られない。

それぞれの人や国が、自分を守り、友邦を助けるためにあらゆる手段を用いることは当然の権利であり、善であり、倫理的な行為である。
逆に、他人や他国を侵害する目的をもって使われる時には悪しきものとなり、不作為は倫理に反する罪と見なされる。
日本は、国際社会での善悪の判断を示すことができない程に、軍事力を使う意志がない。
善悪の判断を明確に示さない政治は、国民の道徳観や倫理観を退化させ、人が信念に基づいて生きることに疑念を抱かせるようになり、社会全体を劣化させる。
善悪の判断を明確にしない国は、信頼されない。
大事なことは、不安感や不信感や恐怖に支配され、踊らされる状態ではなく、理性が支配できる条件を整えることである。
国民が、己の知性と理性に基づいて、感情をコントロールし、自国の防衛に自信を持って、安定的な落ち着いた精神状態を保つことである。
日本人の理性と知性を信じ、あらゆる有効な手段を使って、安定した国際秩序を維持し、話し合いによる発展、共生による繁栄を追求する。国力に相応しい自信の溢れた落ち着いた態度で、穏やかに平和を語る状態になりたいものである。

安全保障は、最終的には個人の責任に帰せざるを得ないものであるから、このような政治姿勢は、国民一人ひとりが、自分自身に降りかかるさまざまな出来事を自らの力で解決して前へ進もうとする心構えや意欲を持つことにつながる。
そのような姿勢を持ち続ける人や組織や国は、輝いて見える。
衰え行くものに輝きはない。

常に脅威を予想し、あらゆる対応手段を用意する姿勢は、日本人の政治的な自信となり、国家としての活力を生む。
安全保障上の問題を自らの力で解決しようとする意欲は、国民が困難に向かって挑戦する積極的な考え方や生き方を導き出す。

■考察の前提及び基軸とする視点

●我が国の地政学的条件

1 大陸に隣接しており、大陸国の脅威が大
2 リムランドに位置する島国であり、海洋国との連携が不可欠に重要

●国家目標(主権確保の具体的目標)

1 象徴天皇制の護持
2 自由と民主主義の維持
3 国家の尊厳(意志決定の自由)の保持
4 海外における国民の生命と財産の保護
5 経済的な繁栄と発展

■安全保障環境(考慮すべき主要要件)

1 国外

(1) 安全保障政策の基軸は、米国との同盟関係

(2) 我が国の安全保障に直接影響を与える国家
ア ロシア
イ 中国
ウ 北朝鮮
エ 台湾
オ 韓国

(3) 日本経済に直接的な影響のある地域
ア 中東
イ シーレーン周辺国
ウ インド

(4) 地政学的重要性から間接的に影響のある地域
ア EU
イ アフガニスタン・パキスタン
ウ 中央アジア
エ 中南米
オ 北アフリカ

(5) 日本企業が進出している重点地域

2 国内

(1) 象徴天皇を元首とする自由民主主義国家

(2) 人口推移(少子高齢化)

(3) 地勢学的条件からくる特性
ア 貿易立国
イ 技術立国

(4) 政治的な基本方針
ア 財政政策(財政健全化路線)
イ 安全保障・防衛政策の基本方針
専守防衛
非核三原則
国防の基本方針

(5) 国民性
ア “戦争=戦闘”ととらえるような独特の戦争観・軍事観
イ 過度の徹底癖と潔癖性、中庸性の欠如
ウ 集団主義
エ 大衆迎合的な情緒的判断


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