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「まぁるい日本 国家安全保障(ビジョン2100)」No7~Ⅰ-2:脅威(その3)~

■諜報活動及び謀略

軍事活動ではない、極めて重要な、古典的ではあるが我が国に脅威を及ぼす活動として、諜報活動及び謀略がある。
諜報活動には、合法的なものと非合法的なものがあり、日本には、非合法的な諜報活動を取り締まる根拠法令がない。
いわゆるスパイ活動は、法律を整備して取り締まらなくてはならない。
諜報活動は、諜報活動と対諜報(防諜)活動に区分される。
諜報活動は外政の範疇で、対諜報活動は内政の範疇で考える。

諸外国と国益が競合する分野において、平和的な手段で政治目的の達成を図るには、利害関係が直接ぶつかり合う以前に、「敵を知る」ことが重要である。
相手の狙いとするところを正確に知り、外交交渉で、より有利な形での成果を得る狙いをもって、国際社会の力関係をより有利な形で固定化しようとするのが外交である。

相手国の既成事実が積み上げられ、脅威が現実のものとなってから対応するのでは、危険度が大きくなる。
一見偶発的に見えるものが、本当に偶然起きたことなのか、意図して行われたのかを知ることで、対応が異なる。
諜報活動は、相手国の真の狙いを知ることで、脅威を顕在化させないうちに、平和的な手段をもって対策をとるために必要な情報収集活動であり、各国ともそのための機関を保有している。

政治的判断に必要な情報の九七~九八%以上は公刊情報から得られ、本当に重要な決心に必要とする情報は、外交など公的な場を通じて得られた人間関係に基づく情報によって得られるので、必ずしも非合法的な諜報活動に頼っているわけではない。
それでも、諸外国からの非合法的な情報活動を封じて自国の安全を確保すると同時に、非合法的な諜報活動を行ってでも諸外国の活動の真意を探っているのが現実である。
いささかでも自国の利益や発展につながり、安全を確保する可能性が大きくなる情報が平和的な手段で得られるのであれば、その情報の入手に心血を注ぐのは、国家の国民に対する責任ある態度だ。

例えば、合法的な諜報活動に身を置く者は、その国を代表するような最高レベルの文化人、教養人で、人間味の溢れる魅力でもって他国の最高レベルの人々に容易に近づき、国を語り、国際社会の平和や人類の未来や理想を語りつつ、情報を獲得する。そして、自国への脅威の匂いを感じたときに、初めて非合法的な活動に着手する。
自国への脅威の匂いがなければ、最高の文化人、教養人、外交官として、二国間の信頼関係強化に貢献する。
国際情勢に現れた事象が、意図した結果生じたものか、意図しない結果として生じたものかを判断するためには、諜報能力は不可欠である。
平和的手段での外交交渉を重視する我が国が、諸外国と同等以上の諜報活動の能力を保持することは重要である。

電波情報の収集は、空中を飛び交う電波を合法的な手段で受信し、追跡し、分析して、自国の安全を脅かす情報を抽出する。
それを実現するのも、拒否するのも、その国のもっている科学技術の粋のレベルによって決まる平和的な活動である。
本来、国は個人の情報などには関心はない。
個人は国家に脅威を与える可能性があると判断されなければ情報収集の対象にならないが、現代は、個人によって国家に重大な脅威を与えることが可能になったが故に、その兆候を探る必要性が生じている。

謀略は、「相手(国)をして、自分(自国)の望むように信じ込ませて、政治目的を達成しようとするもの」である。
謀略を封じ込めるには諜報活動が必要であるが、謀略と諜報活動ではその性格が異なり、対称的なものではない。
謀略は、国家間の外交関係だけではなく、民間の諸活動、情報戦や心理戦や宣伝戦の要素までを含む総合的な活動で、対象国との関係をより相対的にとらえる。
外交はもちろん、合法的なロビー活動などの政党工作、マスコミ工作、文化・スポーツ交流、不法行動、歴史や伝統の否定、価値観・倫理観・道徳観の多様化と混乱、組織への潜入、離反・分裂活動など合法的な活動もあれば非合法的な活動もあるし、友好的な活動もあれば、反友好的な活動、威圧的な活動もある。
それらを巧みに組み合わせて行われる。

戦争は、敵の意思を屈服し、敵に我の意思を強要することで目的を達成する。
戦争は、戦闘をもって敵の戦闘力を破砕し、国土を占領して完了するが、謀略は、平和的な手段をもって敵国をして内部から崩壊させ、あるいは敵をして自ら進んで我が意思にしたがわせる。
あるいは自らは戦争になることを望んでいなくても、平和的手段による解決手段をことごとく封じられ、国益に重大な影響を及ぼす大幅な譲歩を強いられる。さもなければ、やむを得ず軍事力を行使して解決せざるを得ない立場に追い込まれ、国際的な支持を失い、戦争への道を歩むことを余儀なくされる。
最終的に開戦の責任を負わされ、戦争による被害の賠償を強いられる。
敵をして、そういう立場に立たせることにより、戦争目的を達成する。

謀略は、自国をして自ら亡国への道を歩ませる、最も重大な脅威である。
例えば、日本の歴史の否定は、日本の歴史そのものを体現する存在である天皇家に対する尊敬の念を希薄化させる。
過度の平等主義は、道徳や人格の高貴性に対する価値、勤勉や努力に対する疑念を招き、倫理観や道徳的規範を喪失させ、国民精神を退廃へと向かわせる。

国際主義への礼賛は、国家意識の希薄化から喪失へつながる。
同盟国との連携強化も行きすぎれば、他国への過度な依存心を生み、自らの国を守る気概を失わせ、国民の独立不羈の精神を損なう。
同盟国もまた、自国の利益を厳格に評価しながら、より多くのものが得られるように、同盟関係を維持しようとする。

同盟や良好な国家間関係は、単純に好意の結果ではない。
好意だけでないことを知っていれば、互いの目標を語り、双方の妥協点を見いだす努力があり、コミュニケーションによる理解や信頼や尊敬が深まるが、相手の好意だけを信じて頼りにしている者は、感情論に走り、無用な疑心暗鬼を生む。

謀略に対する効果的、直接的な対応策はない。
教育によって、国民に国家意識を養うこと、倫理や道徳教育、特に家庭内教育によって身に染みついた倫理観や道徳観を養うこと、自国の国家目的や国家目標、国益を明確に意識させること、諜報活動を充実して対象国の真の意図を見抜くこと、そして自国の安全保障に絶対的な揺るぎない自信を持つことであろう。
力への自信の無さは、不安を生み、不安は疑念や恐怖を呼ぶ。その不安や疑念や恐怖の心の揺らぎにつけいるのが謀略である。

その一方、人間の行うことには常に意図せざる結果が起こりうることを認めないと、そこから陰謀の理論が生まれてくる。すべてが意図された陰謀に動かされているかのように語られる可能性がある。
その違いを判別し、証明することは極めて難しい。
謀略は、平和時の政治目的達成の手段として、日本でもっと研究されなければならない重要な “知力による戦争”である。

■脅威分析の方法論

脅威は、軍事的能力と意図との乗数で表わされると言われる。
最初から、侵略を公言して軍事力を整備する国などないわけだから、常に対象国の真の意図が焦点になる。

何の意図も思想もないのに膨大な予算を軍事費につぎ込むことはない。
どのような国家であっても必ず、内政において意志を表明し、国内的な基盤を固めて資源を配分しなければならないのは同じである。
全体主義的な国ほど軍の掌握が内政の重要課題になり、国内をまとめるために、構想の段階から軍事力整備の意図を周知して、国民の支持を得ようとする。それはほとんどの場合、自国への侵略的な意図を有する外国に対する“防衛的なものだ”と説明される。

例えば、中国は毛沢東思想に基づいて国家を運営していて、いささかもぶれることはない。その時々の方針は、嘘偽りなく、本音も建て前もなく明らかにされている。それを丁寧に追いかけ、その方針に基づいて整備された軍事力整備の実態を観察する。

軍事力を整備するには、相当の時間がかかる。
主要装備品を外国から購入するにしても、全部隊に配備し、後方支援能力を整え、教育訓練により戦力化するには、一〇年程度の時間がかかる。
研究開発から手をつけて一つのシステムとして戦力化するには二〇年程度の期間を要する。急に方向転換することは極めて難しいし、マイナスが大きい。
現在から五~一〇年後までの軍事力の整備は、すでに過去にインプットされ、プログラムされている。軍事力とはそういう性格のものである。

過去の政治的な意志決定を把握し、防衛力整備のトレンドを分析することによって、その延長線上に、将来の姿が見えてくる。
内政事情を観察し、法律の裏付け、軍事産業の能力評価、輸出入の実績などを分析すれば、意図をほぼ間違いなく推し量ることができる。
どうしても分からなければ、諜報活動によって裏付けをとる。
意図と実態を厳密に評価したことへの自信によって、強い意志で、断固とした多面的な対応をとることができる。


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