天国の祖父へ 愛をこめて

先日、祖父が亡くなった。83才、癌であった。
あと少しで誕生日を迎えられそうだねと言っていた矢先の訃報であった。
普段涙など見せない父が泣いていたのをよく覚えている。

祖父は優しい人であった。祖父に会うのは専ら夏休みのお盆の間がほとんどであったが、会う度に可愛がってくれた。
私に貯金箱の中身を数えさせたかと思えば、それをくれると言ったり、家に泊まった時には流しそうめんをしたり、花火で遊んだ。
私は泊まった時に蚊帳に入るのが好きであった。
祖父は野球観戦が好きで、家に行った時はよく甲子園を観たものだ。

そんな祖父とは、コロナ禍の3年間は全く会わず、入院する前に会ったのが最後だった。
会わない間に祖父は病気で随分と変わっていた。
もう長くない、そう聞いて会いにいった為、覚悟していたことであったが、実際に祖父を見ると少しショックを受けた。
それでも祖父は優しいままであった。

祖父の訃報を聞いた際、あの日会いに行ってよかったと強く思ったものである。
葬式の際に祖父の棺に手紙を入れたのだが、会った日に言いたいことや話したいことは大方話していたので手紙では簡潔に感謝を述べた。
あの日会いに行ってなかったら、今頃は後悔でいっぱいだったと思う。
寂しさや悲しみはあるが、後悔はない別れだった。

通夜の際に住職の言葉が印象に残っている。通夜では故人を偲び、思い出を語ったり思い出したりするものであるが、個人への感謝も感じる日であると。
3年という長い間会っていなかったが、記憶にはたくさんの祖父がいる。記憶の中の優しい祖父に感謝をした。

祖父の顔は穏やかであり、まるで今にも起き出てきそうであった。声をかければ笑顔で起きてくれる、そんな死に顔だった。
そんな祖父を見て、頭では亡くなっていることはわかっていても、まだ理解は出来ない、そんな感覚になった。
最後の別れに後悔はないが、動かない祖父を見る度に涙が出てきた。
悲しみというよりも、寂しい思いが強かったように思う。
あまり前のように出来ていた会話はもう一生出来ず、私は記憶の中の祖父に語りかけることしか出来ない。
自然と涙が出てきた。
祖父を思い出す度に涙が出てくる為、その日は葬儀場から泣きながら運転するヤバい女になったものである。

しかし、こうしてnoteを書いていてもまだ涙は出てくるものである。
祖父のことはまだ過去にはなっていないからだろう。
当家と言われる程近しい間柄の人間が亡くなったのは初めであるが、葬式に出たのは初めてではない。

本題と逸れてしまうため手短に語るが、同級生の葬式に出席したのが初めてであった。
祖父と同じく病気だった。
クラスメイトと言われればクラスメイトであり、友人と言えば友人というようなそんな関係だったように思う。病気ということは知っていたが、車椅子を友人に押されている姿を何回か見たことがある程度であり、その当時の私にはもうすぐいなくなってしまうなど想像が出来なかったのである。
訃報を聞いた後、手に持ったコップを落とすくらい動揺していたことを覚えている。

同級生も穏やかな顔をしていた。
何年も前の出来事になるため、忘れていることも多々あるが、あの顔は一生忘れないだろうと思う。
亡くなってからも、同級生と仲の良かった友人が修学旅行のお土産を家に持っていったり、お墓参りに行っていたのを私は知っている。
私はもう声も思い出せなくなってしまったが、記憶の中には私の名前を呼んでくれる同級生がいる。
卒業式の際は同級生の名前が呼ばれた時に皆で返事をし、成人式の時は一緒に写真を撮った。
同級生は私達の中で確かに生きている。
この思い出を思い出す時、私は優しい顔をしていると思う。何年もの時間をかけて優しい思い出になった。同級生のことを忘れたわけではない。ただ、優しい記憶として私の中にある。

いつか祖父との思い出もそうなっていくのだろうと思う。
まだ思い出す度に泣いてしまうことをきっと祖父は笑いながら見ているのだろう。そうだといいと思う。

優しい思い出になる別れになったことは幸運なことだと思う。
祖父が亡くなって実感したことだが、いつ何が起こるかわからない。
突然事件や事故でいつ家族が逝くかわからない。
一生苦しいまま過ごす事になるかもしれない。
祖父の葬式を経験して、家族より長生きしたいと思うようになった。母方の祖父母はまだ元気であるし、父方の祖母も健在である。
両親も生きている。私は彼らより後に死にたいと思う。私が見送りたいのである。
確かに別れを経験するのはとても辛いし悲しいことであるが、私が先に死ぬ事でその思いを家族にさせたくないと思う。
私は家族を見送りたい。そんな思いが強くなった葬式であった。


祖父に対して言えなかった後悔はないが、したかったことなら山ほどある。
いつになるかはわからないが、また話せたのなら、会えたのなら、貯金箱の中身を数えたいし、流しそうめんだってしたい。夏の思い出ばかりしかないから、春の思い出だって冬の思い出だって作ろう。
でも私はまだまだ長生きする予定である。祖父と会える日は遠そうだ。遠いといいなと思う。その時がくるまで見守っていて欲しい。

2022.09. 09 投稿
2024.05.17  編集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?