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初デート(2)

「タケちゃん、好きっ」
いきなりサエコが耳元で囁き、いっそう強く抱きついてきた。

オレもサエコを強く抱きしめ返し「僕も好きだよ」と囁く。
どちらからともなく軽く唇を重ねた。

サエコは他の客の目が気になるのか恥ずかしそうにオレの胸に額を押し当てる。
この店ではよくある光景だ、別に気にすることはない。

やがてバラードも終わり席に戻る。
ぴたりと寄り添いあって無言の時間を楽しむ。
ふたりの心がひとつに溶け合っていくようだ。
何も語らないからこそ、いっそう強くそれを感じる。

「この前、彼氏がいるって言っていたけど…」
「うん、もう10年近く続いていて…」
「職場の人?」
「うん、会社作った時からずっと一緒に仕事してきたの。相棒みたいな感じ」
「好きなんでしょ?」
「う〜ん、いちおう。でも、長くなっちゃったから、今ではどうしても良いのかわからなくて…」
「そうだね、情が移った感じかな?」
「うん、いつもこのままで良いのかなって…いちおう罪悪感を持ってる」
「ちょっと複雑だね」
「何もかも綺麗さっぱり捨てちゃいたい。会社も彼氏も…」
「リセットしたくなる気持ちわかるよ。でも、現実には難しいよね」
「そう、だから困ってる」
「これからゆっくり考えようよ」
「うん、ありがとう」
「彼と別れろ…なんてことは言わないから」
「でも…嫌だよね」
「正直に言えば愉快とは言えないさ。けど、簡単には割り切れないから。そのことでサエちゃんを追い詰めたりはしたくない。少しずつ考えていこうよ」
「うん」と言いながらサエコから唇を求めてきた。

(つづく)

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