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10番ぶりの出逢い(4)



スナックを出る。
会計はオレが待つことにした。
「いい店紹介してくれたんで、僕が持つよ」
「えっ、いいの? ありがとうございます。じゃあ次の店は私が持ちますね」
「じゃあ、お言葉に甘えて〜」

スナックから歩いて数分。やはり住宅街の一角にそのバーはあった。カウンター席しかない小さなバーだ。照明を極端に落としているので薄暗い。
初老のマスターが一人で切り盛りしている。
客はほかにいない。
静かにジャズが流れている。
ビル・エヴァンスだ。

ふたりでカクテルを注文する。
「ここも旦那さんと来るの?」
「ううん、ここは引っ越してからできた店だから私しか知らないの。友達と何度か。もう少し話したいと思って…」
「なんか僕ら気が合うみたいだね〜 世代も、近くはないけど遠くもないし…」
「そうね、なんか明るくて話しやすいし、優しいよね」
「ん〜、たまにそう言われるかな…」
「ねぇ、浮気とかしたことあるんですか?」
いきなりド真ん中か!
ひと呼吸置いて「まぁ、それなりに…」
「なんかモテそうですもんね」
「全然モテないよ!こんなハゲ親父だし」
「私は全然気にしない。男の人が思ってるほど女性は気にしてないよ、髪のことなんか」
「そうなの〜?でも、ふさふさの方がいいでしょう?」
「ん〜、そんなことより人柄かな〜。今は誰かいるんですか?」
「もう10年くらい前に別れちゃった。今はフリー。サエちゃんは?」
「う〜ん、それなりに…」

旦那のほかに男がいるのか!
サエコと旦那との関係、そして男との関係が気になる。
まずは旦那から探ろう。
「こんな遅くなって旦那さん怒らないの?」
「うちはね〜寛大なんですよ〜。それに旦那も今夜はキャバクラで遊んでくるって。なんか好きみたいでよく行ってる。でもね、仲は良いんですよ」
さっきも「仲が良い」と言っていたが、今ひとつ腑に落ちない。カミさんを放っておいてキャバクラに通うのはさて置き、それをカミさんにわざわざ告げるってのはどういう神経、どういう関係なのか?
「タケちゃんの奥さんは心配しないの?」
「う〜ん、仕事で朝帰りになることも多いから、またかと思ってるんじゃないかな〜」
それは事実だ。

だいぶん酔いが回ってきたのか、サエコがオレにもたれかかってきた。
肩に手を回し優しく抱きしめてやる。
やがて手は肩から滑り落ちて腰へ。
年齢の割に腰回りが締まっていて、薄いワンピースの上からナイスバディなのがわかる。
少し〈息子〉が疼く。

「あのね、もう15年も旦那としてないの。仲は良いんだけど、あっちは求めてくれないの。結婚した頃に何度かしたっきり…」
オレの胸元に頬を埋めながら小さな声で語る。
「え〜それは辛いね。こんな可愛い奥さんいたら、毎晩でもしたくなるけどな〜」
我ながらありきたりの口説き文句を後悔する。
「ありがと」
「それじゃあ、どうしてるの? はっきり言ってカラダ疼くでしょ? 誰かいるの、そういう人?」
「うん、いちおう…」

(つづく)

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