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居酒屋に麦茶ハイがない理由
なぜ居酒屋に「麦茶ハイ」が置かれていないか知っている人は少ない。
風呂上がりの麦茶が美味い季節になってきた。
小学生の頃、冷蔵庫から麦茶ポットを取り出し、きゅ〜と空気が抜けていく音を聞きながらコップに注ぐ夏のプール帰りの麦茶が好きだった。幼児期の原体験というのは40を過ぎても変わらないようである。
身体を気遣い始めた酒飲みは、中盤からウーロンハイか緑茶ハイ一択になるが、どちらにもカフェインが含まれている。
だから身体に悪いということではないが、もっとも身体に優しいアルコールは、麦茶ハイであると昔から一人で推進している。
麦茶はカフェインレスであり、チューハイの定番でもある下町のナポレオン「いいちこ」は麦焼酎でもあるため、麦茶と合うのは自明の理。
同じ種族なんだから合わないわけがない。埼玉県民がパリジェンヌと話が合うか。ヨーロピアンと話が合うか。埼玉県民と合うのは埼玉県民だ。山田うどんと北辰テストの話で飯3杯いける。いや麦茶ハイ3杯いける。
しかし、居酒屋には麦茶ハイが置いていない。
なぜか。
ミネラル麦茶の石垣食品代表である石垣裕義さんによれば、「昔から麦茶は無料で提供されるものという印象があるため、水と同様、店先でお金を払って購入するものではないという概念が根付いてしまっているから」と離している。
一理ある。
では、少し値を下げて出してはどうか。
一般的な酎ハイの価格を仮に350円としたとき、麦茶ハイは250円。
100円も下回っていれば、選択する者は多いのではないか。
麦茶ハイは、デートにも有効だ。
ひとしきり、いきり倒した酒を煽ったあと、ふいに麦茶ハイを注文する。
あら、なんだか可愛らしいもの頼むのね、と女性に言われたときがチャンス。先の話を持ち出す。
夏のプール帰りに家の冷蔵庫をあけてきゅ〜、と、いきり倒した夜のレストランで、少年のような顔で話す。
するとどうだ。
先ほどまで見え隠れしていた、男の不純な下心が嘘のように消え、その背景からは幼き少年の憧憬が浮かび上がり、やがて女性の警戒心は麦茶ハイに入った氷とともに、静かに溶けていく。
かもしれない。
8割の流儀・鷺谷政明
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