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ゴジラはどこから現れなぜ街を破壊するのか問題

“アメリカの水爆実験で生まれたゴジラがなぜ日本を襲いに来るのか”

これが悩みどころだったと、『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督は話している。

ゴジラは、深海で生き延びていた約1億4000万年前のジュラ紀時代の恐竜で、度重なる水爆実験により眠りから覚め、放射能の影響で変貌した水爆エネルギーを全身に充満させた巨大怪獣、という設定だが、ハリウッドのシナリオ教室では『ゴジラ−1.0』は怒られるやつだという。

ゴジラのモチベーションがわからないと。

なぜゴジラは日本を襲い、街を破壊するのか。確かに『ゴジラ-1.0』でその描写はあまり見受けられない。

養老孟司さんは『GODZILLA THE ART』のゼネラルプロデューサーとして、こんな文を寄稿した。

ゴジラは自信や台風といった自然災害も含めた、災害のもたらした歴史や文化、歴史的に日本にある空気の象徴として、私の中にある。なにかうまくいけない、その形にならないものがゴジラとして姿を成し、動き出す。

GODZILLA THE ARTに寄せて・養老孟司

能では、幽霊が経験した哀しみや修羅を語って、聞く人の共感を得ることで鎮魂され、いつしか消えていく。能における幽霊は再び現れることも多いが、その語りを聞くこちらにもまた、鎮魂、そして再生の気運が生まれる。圧倒的な破壊を行うゴジラも同じだ。必要な場所を訪れて、破壊し、なにかを諭したかのように去っていく。日本で繰り返し必要とされるのは当たり前なのだ。ゴジラは、忘れがちな何かを教えてくれている。

GODZILLA THE ARTに寄せて・養老孟司

山崎貴監督は、この解釈がもっとも腑に落ちたという。なぜなら監督は、ゴジラを“祟り神”のように解釈していたからだ。

この二人の見立てを安易に捉えると、「先輩襲来」といったところか。かつて強豪校だった野球部の先輩が、体たらくな現役球児たちに喝を入れにくるあれ。

ゴジラは日本近海に生息する国籍日本の老獣で、唯一の被爆国である日本よ、しっかりせんかい、という祟りか。

日本人は、欧米諸国に比べ宗教が苦手だが、アメリカは聖書ありきだから、なによりもまず言葉が大事な国、と養老孟司さんは話されていた。

確かに日本人は、「わざわざそんなこと言わなくても分かるだろう」という美徳がある。「今日もキレイだね。愛してるよ」と奥さんに言える日本のおじさんを、僕はあまり知らない。

いちいち口に出さないこの日本人気質は、“粋”とも取れるし、“言葉足らず”とも取れる。これが日本男児なのかもしれないが、匿名だと急に雄弁になるという陰湿な特性もある。

いっぽうアメリカ人は、なんでもかんでも言葉にする。口に出す。そうしなきゃダメとされてきたんだと思う。だから契約社会だし、裁判大国だ。

日本人は、はっきりと分からなくても、そういうものなんだと受け入れてしまえるなにかがある。ブルーハーツの歌詞にもそんな件があった。

はっきりさせなくてもいい あやふやなままでいい 僕たちはなんとなく幸せになるんだ

ブルーハーツ・夕暮れ

『となりのトトロ』がこれだけ長く日本人に愛されてきているのも、同じことが言えるかもしれない。結局トトロはなんだったのかという、具体的な描写はあの映画にもない。だから僕らはみんなで考察する。100人いたら100通りの解釈がある。

トトロよりも幾分か分かりやすい『千と千尋の神隠し』がアメリカで受けたのは、やはりそういうことかもしれない。
※第75回アカデミー長編アニメ映画賞

「ゴジラはどこから現れ、なぜ街を破壊するのか」という描写は、どこまで明示すべきだろう。

アメリカナイズするなら、もっと具体的な説明が必要だったのかもしれないが、ドメスティックに突き詰めたものの方が、世界では受ける傾向にある。

アカデミー視覚効果賞を獲ったことで、今後アメリカでも拡大上映していくらしいが、その反応も楽しみだ。

著者の本作への感想は、こちらから↓

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