小話エッセイ☆プロポリスキャンディによろしく
ピンポーン。
下がって、係員にお知らせください。
隣で鳴った自動改札機の音声に、ドキリと足を止めた。
ーーよかった、私じゃなかった。
手元のスイカを確認して、ちょっと胸をなでおろす。
実は私は、何かを何かにかざすという動作が苦手なのだ。
何か欠陥があるのでは、と疑うほどである。
少しでも気を抜いていると、スイカをかざすべき改札機に、自宅のカードキーをあてがっている。
名刺入れをやるときもしばしばだ。
同じポケットに入っていたのだ、と言えばまだ許してもらえるかもしれない。
しかし職場(カードリーダーに社員証でタッチして入室)のドア前で、自分の首から下げているモノをかざすだけの事がなぜ出来ぬのか。
思えばあの白い小箱には、ありとあらゆるものをかざしてきた。
スケジュール帳にペンケース、スマホ。
ポケットティッシュ。
メガネケース。
ふと気がつけばドアの前で、財布のなかからドラッグストアのポイントカードを抜き出している事もあった。
日頃愛用しているプロポリス入りの飴玉が出てくるとでも思ったのだろうか。
ランチ終わり、自らの箸ケースをそっとあてがおうとしている自分に気がついた時には、さすがに
ーーなんでやねん!
誰にも見られていないのを確認し、ひそかに自分ツッコミを入れたものだ。
しかし、よくよく考えてみれば、実は私のほうが一般的ではないだろうか。
想像して頂きたい。
一秒たりとも遅れることの許されない朝のラッシュの駅改札。
流れを止めてしまおうものなら、
「チッ!」「チッ!」「チッ」「ッ」
4~5列後ろまで舌打ちのエコーが連鎖する極限空間だ。
多くの人が手の内のスマホを睨みつつ、
改札に入らんとするその刹那、腰の刀を抜くかのごとく、キラリひらめくスイカを構え、ピッピピッピと突き進む。
あのような離れ業を、苦もなくしてのける方々こそ、類いまれなる能力の持ち主ではないかーーと私には思えるのだ。
いや、スミマセン。私がボーッとしてるだけですね。
《お知らせ》
小話エッセイは、今後週3回程度の更新とさせていただく予定です。
今後とも何とぞよろしくお願いいたします m(__)m
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