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一言エッセイ/今さら「坊ちゃん」にはまるまで

この期に及んで、ようやく読みました。

夏目漱石の小説は大抵読んでいるけれど、この薄い本だけはこれまでどうにも手が出なかった。
まさしく食わず嫌いの一冊だったのです。

出会いはたしか中学時代。
国語の教科書に冒頭が掲載されていたのが最初でした。

「なんやねん、これ」

ちょっと読んで、そう思いました。
「おれ」という一人称を含め、ネイティブの関西人には江戸弁がまったく馴染めず、頭に入ってこないのです。

向こう見ずな江戸っ子気質も、大人ぶった現実主義の女子中学生にとってみれば、単なるバカか毛虫くらいのもの。

主人公よ、なぜに二階から飛び降りる。
自分の親指をナイフで切って、一体なんの得がある。

こんな低俗なものが、日本を代表する小説家の作品として教科書に載るのか。
と、何だかこっちがバカにされたような気にさえなったものでした。
いやしくもアタクシの学ぶ教科書に掲載されるのなら、それなりに高尚であって然るべきだとでも思っていたのでしょうね。

それから幾星霜かを経て、生意気ティーンはお婆となり、生来の播州弁を捨てたエセ標準語使いへと変貌を遂げました。

図書館で件の「坊ちゃん」を手に取ったのは、一人称小説の参考にしたかったから。

そういやコレ通して読んだことないな。
ちょっと鼻につくイメージだけど、前は毛嫌いしてた「猫」も今ではめちゃくちゃ好きだし(そう、若かりし頃の私は「猫」をも敬遠していたのです)、

毛の擦り切れた毛布ケットをツトって呼ぶところなんてケッサクだった、ヒッヒヒなどと思い出し笑いしながら、薄っぺらい「坊ちゃん」の文庫本を他の本に重ねました。

そうして、実際に読んでみると・・

ツトでほくそ笑む人間が、「坊ちゃん」を気に入らないわけがない。

面白すぎて、先を読むのが惜しすぎて、少し読んでは戻って笑い、またページをめくってはその上手さに悶絶し。

お気に入りの落語をくり返し聞くように、たっぷり時間をかけて味わわせて頂いたのでした。

その可笑しさ、すごさ、巧妙さについては、またいずれ。

とても私ごときが簡単に説明できる代物ではありませんので・・

一人称小説は?
はあ、まだまだ先は長いようです。


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