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ベトナムの社会保険 Bảo Hiểm Xã Hội

社会保険の種類
 
 ベトナムの社会保険には,①(狭義の)社会保険 ,②失業保険及び③医療保険があります。①は社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội)で,②は職業法(Luật Việc làm)のなかで ,③は医療保険法(Luật Bảo hiểm y tế)で規定されています。

(狭義の)社会保険(Bảo hiểm xã hội)

 (狭義の)社会保険は,「疾病給付,妊娠出産給付」,「労災・職業病の給付」及び「退職年金,遺族給付」から構成されています。
 ベトナム人に関しては,期間の定めがない労働契約を締結した労働者(いわゆる正社員)のみならず,期間の定めがある労働契約を締結した労働者(いわゆる契約社員)についても,1か月以上(上限は36ヶ月)の期間を定めた労働者についても加入が強制されています。
 保険料の負担比率は,使用者が給与等の17.5%を拠出し,労働者が給与等の8%を負担します。
 外国人の(狭義の)社会保険加入義務については,「強制社会保険への外国人労働者加入に関する政令(143/2018/ND-CP)」が2018年10月15日付で公布され,労働許可書等を取得し,ベトナムで1年以上の期間を定めた労働契約(期間の定めがない場合も含む。)を締結している外国人(当然,日本人を含む。)の(狭義の)社会保険加入が強制されるようになりました。もっとも,社内異動による場合とベトナムの定年に達した者は適用外とされています。
 こうして,外国人については,(狭義の)社会保険のうち「疾病給付,妊娠出産給付」及び「労災・職業病の給付」に関わる保険料について,2018年12月1日から使用者に支払い義務が発生しています。保険料率は合計で使用者3.5%で,労働者の負担はありません。
 なお,外国人の「退職年金,遺族給付」に関わる保険料については,2022年1月1日から支払い義務が発生する予定です。保険料率は,使用者が14%,労働者負担が8%とされています。

失業保険(Bảo hiểm thất nghiệp)

 離職の理由を問わずに,失業者に対し,直近6ヶ月間の平均賃金の60%に相当する金額を,加入期間に応じて3ヶ月から12ヶ月の間で支給するというものです。ただし,支給されるのは,失業前の24カ月間に12ヶ月分の失業保険料を納付していることが条件になります。
期間の定めがない労働者に加え,3ヶ月以上(上限は36ヶ月)の期間を定めた労働者についても加入が強制されています。外国人には加入義務はありません。使用者及び労働者が給与等の1%をそれぞれ負担します。

医療保険(Bảo hiểm y tế)

 日本の健康保険に相当するものです。
 期間の定めがない労働者に加え,3ヶ月以上(上限は36ヶ月)の期間を定めた労働者についても加入が強制されています。医療保険については,外国人も加入義務があります。
 保険料率は,使用者が3%,労働者負担が1.5%とされています。医療費の自己負担率は基本的には20%です。

社会保険料算定の基礎となる賃金及び手当

 これら社会保険料の算定の基礎になる賃金及び手当については,社会保険法89条2項,医療保険法13条及び(失業保険に関する)職業法58条により,2018年1月1日以降,基本給のほか,業務関連性がある一切の手当(役職手当や危険手当など)が含まれることとされています。
 他方で,通達59/2015/TT-BLDTBXHは,業務関連性がない「食事・電話・交通・住宅・育児手当」などを,社会保険料の算定の基礎から除外しています。
 ベトナム企業のなかには,社会保険料の軽減を図るべく,基本給に比し,業務関連性がない「食事・電話・交通・住宅・育児手当」の比重を大きくしているところもありますが,当局は,とかく外資系企業に対しては厳しい運用を求めてきますので,注意が必要です。


東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。