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【小説】シェッズ先生の心思なヒステリック
「先生。こっち向いてください」
「嫌だ」
シェッズは黒い革張りの椅子に膝を抱えるように座り、椅子を回転させて田中に背を向けていた。背もたれにシェッズの姿が隠れ、田中からはその様子がうかがえない。
机に寄りかかるように手を付いて、田中は大きくため息を吐いた。
事の発端は、数日前に解決した事件にある。解決後、シェッズが紅茶好きだと聞いた依頼人が、お礼として高級茶葉を送ってきた。受け取ったシェッ
【小説】シェッズ先生の酔狂なバレンタイン
バレンタインデー。男女が愛を告白し、贈り物をする日。近年では、女性が意中の男性にチョコレートを贈るスタイルが流行していた。
煉瓦を壁に敷き詰めたビルの二階の事務所に一つだけある窓から、下に広がる大通りを行き交う人々が見える。この中のいったい何人が、今日という日に一世一代の大事を成し遂げるのだろうか。
「先生。リサちゃん、上手くいきましたかね」
田中は自分の師匠であり雇い主の探偵、シェッ
【小説】シェッズ先生の真摯なクリスマス
窓から、下に広がる大通りに目をやれば、二人連れがいつもより多く行き交っている。どの二人組も互いの距離が近く、仲睦まじい様子が遠くからでも見て取れた。雪が降っていればよりロマンチックだったのだろうが、雲はどんよりと立ち込めるのみである。それでも人々の発する空気が、クリスマスという日の明るさを維持していた。
そんな世間の空気に対して、この部屋は外の空のように冷めた雰囲気を漂わせていた。コンクリー
【小説】シェッズ先生の紳士なティータイム
とある昼下がり。洒落た通りの一角に佇む、落ち着いた雰囲気の喫茶店。そのテラス席で男性が二人、資料をテーブルに置いて話し合っていた。
「シェッズ先生。いい加減紅茶飲むのやめて、この人のところへ行きましょう」
「君は、私が紅茶を飲む以外に何もしていないと思うのかね?」
「はい」
白いワイシャツに茶色のスラックスという、見た目の若さにあまりそぐわない地味な格好の青年がきっぱりと言い放つ。少し丈の