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農水省「みどり戦略」を自分なりにひも解いてみた

さがみこファーム代表の山川勇一郎です。

農水省が今年5月に「みどりの食料システム戦略」(通称:みどり戦略)を発表しました。

大目標に「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現」とあります。全部読んでみましたが、なんだか難しい言葉が並んでいてすっと頭に入ってきません。農文協の解説本も読んでみました。ちょっと理解できました。

ぼくなりに解釈すると、気候変動問題を解決するために、「農業分野を脱炭素化しましょう」という戦略です。

現代社会の私たちの暮らしは化石資源に依存しています。
それは農業も例外でありません。実際に農業をしてみると、いかに農業が化石燃料漬けの産業であるかを実感します。

農業用の資材の大半はプラスチックで、原料は石油です。
農業用機械は軽油やガソリンで動きます。ハウスの暖房は重油や灯油を使いますし(ハウス自体も化石燃料由来です)、農産物の輸送や農業者の移動には車を使います。袋やケースなどのパッケージはほぼ石油由来で、農薬類もほぼ科学的に合成されたものです。

また、植物の生育に必要な3大栄養素は「窒素」「リン酸」「カリ」ですが、窒素肥料はアンモニア(NH₃)から作られます。アンモニアを作るには多量なエネルギーがかかります。その原料の大半は化石燃料です。リンとカリは100%輸入で、採掘も輸送も多量なエネルギーを使います。船も飛行機もほぼ化石燃料です。
そもそも人類は、こうした化学肥料を人為的に生成することで70億の世界人口が食べられる食料生産を実現しましたが、それは化石燃料を無制限に突っ込んだ結果であると言えます。

そう考えると、日本の99%以上を占める慣行農法は、「化石燃料農業」と言っても過言ではありません。農業というと何となく自然に優しそうなイメージがありますが、それははっきり言って幻想です。有機農業は圧倒的に小規模です。

こうした化石燃料に依存したエネルギーを多量に使う農業は、化石燃料が使えなくなったら持続不可能ですから、世界が脱炭素を目指す以上、別のやり方をつくっていかないといけない、ということになります。

日本に先立ち、欧州では「Farm to Fork戦略」、アメリカでは「農業イノベーションアジェンダ」などの野心的な目標を発表しています。

日本のみどり戦略では、現在わずか0.5%しかない有機農業の割合を25%まで大幅アップし、肥料を国内や地域で循環し、利用するエネルギーを再エネ化し、ロボティクスなどの先端技術で担い手不足を補いながら生産性を向上させ、2050年にカーボンニュートラルを目指す、としています。脱炭素と生産性向上を両立させる、ということです(目標に書いてありますね)

保守的な業界の筆頭である農業を所管する農水省から、このような野心的な戦略が出てきたのは正直驚きで、方向性としては歓迎すべきだと私は思います。

ただ、実現は簡単ではありません。
世界潮流からすれば十分想定されたことですが、日本の業界関係者にとっては「農水省、いきなり何言っちゃってんの?」という感じでしょう。「今までの農業のやり方は持続不可能なので、根本的に見直しましょう。」と言われているようなものですから、余程意義を理解して、かつそこに取り組むメリットが感じられなければ人は動かないと思います。

また、先日、某農政局の職員に同戦略の説明を受けましたが、正直何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。要は農水省の職員がこの戦略の意味を理解していないのだと理解しました(^^;)
農業者の大半は70代以上の高齢者ですから、「何言ってっかさっぱりわかんねぇ。」「そんなのできるわけねえだろ」「オレはそんなのやらねえ。」という声が今にも聞こえてきそうです。

ただ、これはこの戦略だけの問題だけではない気がします。
いくら素晴らしいことを描いても、今のままだと何が問題なのか、どうすればいいのか、自分にとって何がいいのか、腑に落ちないと人は動きません。粘り強く、様々な方法で理解を進めていくしかないと思います。

表現や伝え方にも問題がある気がします。
この手の戦略は、公開前に、中学生100人に読んでもらって、彼らでもわかる表現にしないと世の中に出さないとか、思い切ったやり方をしないとダメな気がします。

このように、みどり戦略の前途は多難なことが容易に予想されますが、私は基本的には賛成です。

さがみこファームでは、再生可能エネルギーを農地で作っていることが一つの強みなので、それを最大限に生かして農業の脱炭素化を目指していきます。ひとつひとつやれることをやっていきたいと思っています。

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