見出し画像

抵抗勢力への接し方

さがみこファーム代表の山川です。

今回は、何か新しいことを進めようとした際に必ず当たる人の壁、いわゆる「抵抗勢力」にどのように接すればいいか、農業の現場から思うことについて書いてみたいと思います。

農業は私たちの暮らし支える基幹産業ですが、農業者の平均年齢は67歳、地方は過疎化・高齢化が進み、このままでは日本の農業は立ち行かなくなるのは明白です。新しい動きの胎動は全国各地で見られるものの、農業者の大多数は依然として厳しい状況にあります。

大陸のように広大で平らな国土が少ない(北海道を除く)日本において、農業復興のカギは、「従来のやり方に囚われずに、その土地の良さを引き出し、農地空間の価値を最大限に高める」ことではないかと私は思っています。言い換えると、農地面積あたりの収益を最大化するということです。

そしてさがみこファームでは、農業を軸に再生可能エネルギー、そして観光や教育という手法を掛け合わせることにトライしていますが、現実はそう簡単には進みません。なぜなら、法律上、「農地は農作物を生産する場所」であって、そこを少しでも外れた用途で使おうとした途端に様々な制約に引っ掛かるからです。ただそうこうしているうちに「農地という名の荒廃地」は年々増え続けています。「農地を守るための法律が、逆に農業から希望を奪っている」という皮肉な現実に、農業関係者はとっくに気付いています。

では、どこからどう進めればよいのでしょうか?

結論から言えば、イノベーションとか農業ICTとか聞こえのいい言葉だけで劇的に変わるようなことはなく、「現場に飛び込んで周囲と人間関係を構築し、当事者として新しいやり方を行動で示し、目の前の現実を少しずつ変えていく」しかないと私は思っています。

「郷に入れば郷に従え」という諺がありますが、明確にやりたいことがあるならば、「郷に入っても、郷に従う必要は必ずしもない」と私は思います。今までの枠の中で今までのやり方を踏襲して問題が解決するなら、とっくの昔に解決しているわけです。当然、何か新しいやり方にチャレンジしなければ新しい何かを生み出すことはできません。無論「法を冒せ」と言っているわけではなく、合法的な範囲で、従来と異なるアプローチで既存の枠を越えていくということです。

何か新しいことをしようとすると、地域住民や行政や業界団体との関わりなしにはできません。しかし、どこの地域でもたいてい偏屈な近隣農業者や、自分は何もしないのに何かしようとすると口だけ出してくる長老や、堅物の農業委員や、杓子定規な行政マンなどが、壁のように立ちはだかってきます(※あくまで一般論です。自分達の地域の事例ではありません、あしからず)。ただ、そうした声対してあれこれ文句を言う前に、まずは農業の現場に立ち、畔の草刈りをし、ハチに刺されたり、ヒルに嚙まれたり、イノシシの被害にあったりと、今までやって来られた人たちと同じ空気を吸い、同じ苦労を共有し、同じ言語で話さないと、そもそも人として認めてもらえません。人間とはそういう生き物なのだと思います。

まずは郷に入り、その考えを理解する努力し、人間関係を築く。たとえ考え方が違う相手だったとしても、一定のリスペクトを持って接することが極めて重要です。その人なりのやり方と、守ってきたものがあります。特に地域の人は、先祖代々の土地を守る義務、はるか昔の近隣の家とのいざこざ、親戚・兄弟との穏やかならぬ関係、水利や開発を巡る地域の歴史、地域に残った人と出て行った人の微妙な関係など、様々なものを背負っています。地域の人たちがどういうロジックで動いているかを注意深く観察し、文脈を理解した上で進めないと、単なる「自分の都合だけで地域をかき回す人」と受け取られてしまいます。

特に、何か今までと違った世界を創ろうとする場合、こちらのやりたいことを理解してもらうには、一定の時間が必要です。今まで何十年もそうしてきたわけですから、新しいやり方をすぐに受け入れられないのは当然ですよね。私たちの側が「異質な存在」であり「抵抗勢力」なのです。ただ、「農地を残すこと」「地域を良くすること」など、共通点はあるはずです。「今までとやり方は違うかもれないが、想いは共通している」ことを行動で示し続けることで、解決の現実的な道筋が次第に見えてくるものです。ただ、人の意見を聞きすぎると何もできなくなるので、一定の配慮をしつつも、柔軟性と意志を持って、根気強くやりたいことをやりきることが大事です。

「周囲に耳を貸さない異端児」は孤立し、「聞き分けのいい新参農家」はしがらみに絡み取られる。地域によって状況は異なるので一概には言えませんが、そうしたバランス感覚は経験を積んで養うしかないと思います。

私の友人で、板橋の商店街で飲食業を営むまちづくりの仕掛人がいます。彼が商店街の長老達と接する際の機微を「ゴールは黙認。理解してくれなくても、黙認してもらえれば御の字」と言っていました。商店街と農業は分野こそ違えど、考え方に共通点は多いと感じます。

小泉元首相のように、反対する人を「抵抗勢力」と呼んで徹底的に叩くやり方は、自分が権力の側にいて、短期間に結果を出したい時、かつ一定の勢力を動かせる勝算がある際は有効な選択肢かもしれませんが、反作用も大きいのも事実です。特に農業の場合、今はまだ既存勢力が圧倒的に大きいため、そこに徒手空拳で立ち向かっても、潰されるのは明らかです。自分たちの事業にネガティブな人も、まずは「黙認」してもらって、結果を示しながら徐々に味方を増やしていく。「気づいたら、なんか広がっていた。」程度がちょうどいいと思います。「必要以上に目立たない」「抵抗勢力をつくらない」やり方が、特に農業という国の基盤を支える業界では必要である気がしています。そうした地味なやり方を続けて地力と信頼を蓄積することで、もっと大きな変革の波が来た時に一気に乗ることができると思っています。そう遠くない将来、農地法を根本的に見直さなければならない時が来るでしょう。

私たちの場合、地域と縁もゆかりもなく、かつ農業者でもない素人であったにも関わらず、大変ラッキーなことに、地主さんや、周りの農業者さんや、行政当局など、多くの周囲の理解もあって、チャレンジをさせてもらえるのは本当に有難いと感じています。今のままだとジリ貧になって地域は衰退するという不安や危機感を持ち、私たちの取り組みに一定の期待感をもってくれているということだと思います。無論、賛同してくれる人ばかりではありませんが、新しいことを始めれば慎重意見や反対意見がないことのほうが不自然であり、そこは根気強くやっていくしかないと思っています。

そうこうしている間に次第に賛同者が増え、やれることが増えていきます。実際、最初は2反強からのスタートでしたが、今では管理面積は約7倍に広がりました。他方、この3年間で既に3人の地主さんが亡くなり、既存の2人の農業者のうち1人は離農されましたが、私たちのつながりから同世代の方が今夏に新規就農しました。足元の変化は確実に起きています。

私たちは私たちなりのやり方で、世の中をより良い方向に変えていきたいと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?