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「そくざ」と「じっくり」

「お前は大上段から切り込んでくる」とかつて言われたことがあります。先輩や友人との話し合い や議論を行っていた時のことです。研究員の谷内です。

いつも話題に興味を持ち素直に発言していたのですが、友人に「よく言えば確信をついてくる、逆に痛いことや言って欲しくないところををついてくる」と言 われたこともありました。こんなことがきっかけで、対話や発言を意識し始めたのを覚えていますが、いまだに「口が悪い」とか「毒舌を吐く」などと友人に言われています。このことは藤平さんの「即興」からまさに即興的に思い浮かんだのです。

私たちにとって対話は日常的なものです。もちろん対話のシチュエーションは様々であり大小問わず「とっさに、即座に」対応しなければならない場合もあります。対話ばかりか災害や事故や事件から日常の仕事のトラブルにクレームとスピードを求められ急を要すことはあるものです。情報社会の現在、その情報量の多さからなのか、解決しなければならない問題が増加しているのか、 結論的な解を求める時間が短くなってきているのか、何事も速くこなさなければならないと私たちは思い込んでしまっている風潮にあるのではないでしょうか。

さて昭和の30年代のインスタント麺が発売された当時、便利さと味わいに驚きを持って食べたの を覚えています。今やインスタント食品は、冷凍技術やパッケージング、物流システムの進歩によって、電子レンジで専門店やプロの味を簡便に家庭で味わえるようにもなってきました。欲し いものや美味しいものを即座に味わいたい欲求を満たしてくれるのは、嬉しい限りです。 食べ物ではないですが、「いつでも、どこでも」のユビキタスも携帯の普及から当たり前になってしまった感もあります。利便性や即応性を高めるためにネット社会と情報化は、日進月歩どころか秒進分歩といった様子でなお一層進展していくでしょう。 利便性やスピーディーさを求める一方、人気のある飲食店に長蛇の列をなして長時間並んで待って いる状況を見聞きするたびに、この「待つ」と「速く」のギャップに不思議な感覚になってしま います。

このギャップを即興の連想と対極、対応、逆や裏表で考えてみると 即興→とっさに、即座に、スピード、早く、間髪を入れず、...... コンピニエンス、インスタント ファーストフード など。これらの対応、対局、逆などを出してみると、 ↔入念、計画、綿密、周到、念入り、克明、...... スロー、じっくり、ゆっくり、のどか、...... スローフード、晩餐、懐石 などなど。

突然思い出しましたが、江戸前寿司の誕生は急いで食べさせないとならないからだったとか言われています。参勤交代で、江戸入場前に今の品川あたりで急いで服装を整え、腹を満たして出発し なければならなかったそうです。押し寿司が主流であった時代、作るのが間に合わないので、おにぎりに具を乗せて出したのが始まりだと聞いたことがあります。握り寿司を江戸前というのは、まさに江戸入場の手前だからと言われているようです。江戸前寿司は当時のファーストフード と言えるかも知れません。

寿司はさておき、画一的な現代のファーストフードに対して食と食文化を根源的に考えるスローフードがあります。このスローフードから派生しスローライフという概念の和製英語が生まれてい ます。「ゆっくり、ゆったり、心豊かに」を標語にして「スローライフ」が注目されたことがあ りました。静岡の掛川市をはじめ各地に波及し、のどかさを求めた昨今の田舎暮らしや地産地消、食育に繋がっていると思われます。

さてさて、今の私たちはどうでしょうか。利便と不便・スピードとスロー・忙しさとのどかさなど、この相反した一見矛盾する両面を求めているのかも知れません。仕事に明け暮れ、慌ただし く過ごしてきましたが、自分自身の生活スピードを見直して「ゆっくり、ゆったり、心豊かに」を私は忘れていたようです。目まぐるしい社会の変化と情報に追われているような今こそ、改めてス ローライフを考えてみるとどうなるでしょうか。

                文/谷内眞之助(Safeology研究所研究員/兵庫・神戸CSの会特別会員)

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