見出し画像

『きのう何食べた?』(よしながふみ) に見るやさしくてたくましい社会

HAKOMACHI 一日一冊3/31冊目

実写化、映画化まで楽しみにできた漫画

3冊目に来て、漫画を挟みます。予定よりも早い登場です。
漫画は大好きなのですが、少年漫画の戦闘シーンの良さなしで、ここまで好きになったのは、珍しかった本なので紹介します。

この本との出会いは、本に関する雑誌の中ででした。
母が、表紙になっている俳優が好きだったかそんな理由で買ってきた、某天才画家研科学者の名を冠した、本に関する雑誌。
(哲学者の名を冠した雑貨雑誌の本特集だった可能性も出てきました。悪しからず。)
毎月、著名人が有名作品を紹介していきます。
その欄に、書かれていてそのタイトルに、惹かれたのでした。

設定にも興味を惹かれました、ゲイのカップルが主人公の料理漫画、設定だけ見るとどんな濃い内容かと思いきや、絵のタッチからもわかるような優しく、温かいお話です。
何冊か漫画を買って読み、実際に料理も作ってみたりして、そんな時。

確か、大学4年生の1月から3月。
就活も終わり、資格試験も受かり、卒業旅行も行き、本当に何もない。
カフェで作業をして、プログラミングに挑戦するけど、挫けて、
ラインの返信一つで目の前が真っ白になり、カフェでよろける経験をしていた、そんな季節に。
この作品がドラマ化することを知るのでした。

『きのう何食べた?』 よしながふみ

この作品の良さは、
・日常の中に出てくる料理であること。
・ちゃんと作り方の手順も描写をされていること。
・パートナー同士の同棲の距離感や周りの人との関係性がやけにリアルに、優しく表現されていること。
です。

日常の中での料理を

まず、誰でも作れてしまうくらい、リアルで実用的なレシピで、でも
「それとそれ合わせたらうまいだろうなあ」と感じさせるレシピのセンスや
「この時期にそれ食べたくなるよね。」という日本人の季節感をついてくる感性、
いいなあ、って単純に思ってしまうのです。

好きなエピソードの一つ。
史郎さんが一緒にスーパーで買い物する仲の主婦がいて、
(まずどんな仲やねん!というツッコミから入ります。)
その奥さんが子供たちのためにつくるそうめん。
暑い夏に、ツルッとそれでいてしっかり食べらるような、食感のデザイン。
夏野菜を使って、夏バテしがちな夏にも野菜がいっぱいとれる工夫。
それでいて、そうめんと夏野菜と、家にある調味料だけでできそうな、手軽さと。
ああ、生きるために、いわば「食っていく」ために料理をしているな、と。
コスト、味、栄養、季節感、全てが最適化されていて、これが料理の醍醐味だなと。生活の中にデザインされた一つのプロダクトだなと。

描写の流れに沿って調理すると、できる。

さらにすごいのは、紹介されたそれぞれの料理がちゃんと作れるように、調理しているシーンが手順に沿ってしっかりと描かれるのです。前述のそうめん、実際に作ってみたのですが本当に簡単で、しかも夏にぴったりの味で美味しいのなんのって。あまりに総合得点が高すぎて、危うくもう一把、素麺を茹でようかと思ったほどでした。

料理を通して登場人物の関係性を描く

そして最後に、史郎さんとケンジの関係性についても好きなエピソードがあります。
普段料理をするのは、しっかりもので倹約家の史郎さんです。
でも、ケンジも美容師さんをやっているだけあって、器用だし料理にはこだわりがあるのです。
ある日史郎さんが実家に帰省している間、ケンジは料理をします。
某有名メーカーの袋ラーメンを取り出し、調理を始めるのです。とはいえこれは料理漫画、シンプルな具材にもこだわりがあって、インスタントラーメンにしか出せないあの「やけに美味い」感覚。ケンジの料理を通してからは、そんな魅力が伝わるのです。
そして少しの贅沢を積み重ねた、最高のラーメンができて、いざそれに1人でありつこうとしたその時、史郎さんから電話がかかってきます。
でもそれに出ることなく、ラーメンをすするケンジ。

食べ終わった後、電話をかけ直して史郎さんに謝るケンジ。
でも何を食べていたか聞くと史郎さんは「わかる、あれは一気に食べないとな」と言うのでした。パートナーは、こうした価値観が合っていると、お互い幸せを感じやすいなと感じた、そんなエピソードでした。

大好物の破壊力

さて、そんな素敵な漫画ですが、実写版の映画を見た時に、僕もだいぶ弱っていました。(その時は大丈夫だと思ったのですが、今思うとかなりきていたかもしれません)。

映画の主題歌はスピッツさんの歌う、大好物、という曲なのですが、この曲の破壊力がやばい。
「君の大好きなものなら、僕も多分明日には好き」
生きてていいんだよ、好きなものを好きって言って、それでいいんだよ、の破壊力が凄すぎて、泣きながら歌っている日もありました。

素敵な作品は、素敵な人たちに映像化されて、またさらに素敵な才能の出会いを生むな、と実感した作品でした。
あと何回か、多いけれど限られた数の「食べる」という体験。
あなたは、何を、誰と、食べ、過ごしていくのでしょう。
僕は、どんな食材を、どんな調理法で、誰と一緒に食べて、生きていくのでしょう。それを思い出す、合言葉のようなものだと思っています。

みなさんは、きのう、何食べましたか?



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?