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【男の自画像-5】ハーレムの銀座、NY125番街

 ハーレムに住む彼等にしたら、生活の場でもあろう。バスから降りることもない日本人の観光客は、彼等にどう写るのだろうか。お金を持っている「かも」なのか。少なくとも、心からの歓迎はなさそうだ。

 でも新宿と比べて良いところがある。カラスがいない。カラスの餌になるものが少ないのだろうか。カラスそのものが少ないのだろうか。いずれにしても、僕は、新宿でカラスと一緒の通勤にいささか閉口している。

 マグドナルドがある。お店の雰囲気は、殺伐としている。店内の雰囲気も日本とは少し違うようだ。看板等も日本のようにケバケバしくない。ハーレムの近くのマグドナルドでは、従業員とお客の間に透明の防弾ガラスがあるらしい。

 テーブルの下に小さな窓があり、ターンテーブルになっている。このターンテーブルに商品とお金を置いてくるくると回すらしい。何と寂しい光景か。子供にせがまれたお父さんがニヤニヤしながら、ビッグマックにかぶりついているのが当たり前だと思っていた。我が家の、いや、日本のマグドナルド感覚ではない。

 「アポロシアター」を左手に、「ペイントシャッター」を見る。ガイドのSさんが説明していた落書きが芸術に発展した、たぐいである。

 バスが右折する。お店のシャッターがすごくきれいだ。あれは落書きではない。スプレーで描いたとは考えられない。とても、シャッターの凸凹した表面に描いてあるとは思えない。中世の絵画を模写したような構図である。人の腕の筋肉らしさ、顔の表情など実に美しい。まぎれもなく芸術である。

 Sさんのガイドが続く。日本人はハーレムというと、「犯罪者の集まり」というイメージが強いらしい。しかし、決してそうではない。むしろハーレムは、犠牲者である。ベトナム戦争。すべてがNO1.のアメリカを苦しめたベトナム問題。苦しみから逃れるために、麻薬に救いを求めた弱い人間がここに集まっただけのことである。ガイドのSさんの熱弁を聞いて僕は、飛行機の中で「白い雲」のことを思い出していた。旅行会社の仕事とはいえ海外に10数年。辛いこともあったのだろう。アメリカ人の気持ちが分かるようになったのだろう。

 僕は、この手の感情に弱い。ガイドのSさんが、妙に身近に感じてきた。

 まもなく、セントラルパークだ。セントラルパークといえば「ジョン・レノン」。真ん丸メガネに、優しい瞳。「イマジン」の曲がすきだ。歌詞にあこがれた。しかし、オノ・ヨーコとの結婚の動機は、いまだに理解できない。不思議だ。 あこがれの人、「ジョン・レノン」。彼が、愛した「セントラルパーク」。彼が、歩いたところ、同じ場所に来ているのだというだけで胸が高鳴る。

メトロポリタン美術館を右手に、宿泊先のヒルトンホテルが近い。

 ヒルトンホテルで、はじめての食事。牛のヒレステーキ。とにかく分厚い。優に400gはありそう。見た目にもおいしそうである。しかし、機内食を食べたばかりでおなかがすいていない。あまり食欲はない。食べきれるだろうか。隣の横浜支社のFさんは、むしゃむしゃと食べ始めた。負けてはいられない。ワインを一気に飲み干し、ナイフをつかんだ。

 ナイフとフォークを動かしてはいるが、口に入らない。隣のFさんをチラチラ気にしながらビールにばかり手が伸びる。左手前にあるロールパンを見るのさえ嫌になっている。咀嚼の回数が多くなる肉汁が口の中一杯になってきた。もう、いい。残そう。最後の肉を飲み込み、そう決めた。人間不思議なもので、そう決めたら気分がスーとしてきた。

 デザートのアイスクリームがきた。日本の「サーティワンアイスクリーム」の2倍はあるだろうか。でかい。ボリューム満点。しかも結構旨い。肉は残してしまったが、アイスクリームは食べられる。胃袋におさまる場所が違うのだろうか。アイスクリームの冷たさが気持ちいい。その時、後ろから「アイスクリームにチョコレートをかけますか?」との声。すでに、「お玉」にはいったチョコレートが目の前にある。僕は、思い切り首をふって答えた。

Thanks, but no thanks.

 食事も終わる頃、近畿日本ツーリストのMさんさんがいう。「皆さん、食事の量はいかがでしたか?足りないようでしたら追加注文できますが・・・・
 先程、機内食を召し上がったばかりですので、今の食事は、コーンスープをカットしてあります。何なりとお申付けください。」

 さすがに誰も手をあげる人はいない。皆が同じなんだなという安心感。そして、このボリュームの食事が、後7日間続くと思うとゾッとしてきた。日本から持ってきた「太田胃散」は足りるだろうか。と馬鹿な心配をしてみる。

腹減らしに、エンパイヤステートビルへ夜景を見に行った。

 ホテルの前から、イエローキャブに乗る。チップを渡す時は英語で何といったっけ・・・下を向いて、ぶつぶつ言っている間に、ビルの前に着いてしまった。もちろん、どこを通ったかは覚えていない。チップこみで、$4・50。

 最上階は、102階。360度のパノラマの夜景。す、素晴らしい。親父に見せたらひっくり返るのではないか。さらに驚くことは、102階の高さで、展望台として外に出られることである。日本では、まずないだろう。

NYの気温は、摂氏マイナス6度。(NYでは華氏表示なのでややこしい)

 ビールでほてった顔に、冷たい風が気持ちいい。熱海の夜景をはじめとして、北海道は札幌、九州は火の国熊本の夜景。そして、グァムの夜景も素晴らしかった。

 しかし、地平線まで続くNYの夜景の魅力には勝てない。「素晴らしい」としか言いようがない。日本の夜景と違うところは、宣伝のためのネオンがない。ちかちかとしたネオンサインがないのである。ビルは、中世の建築デザインらしいものが多い。そして、下の方からのライトアップがまた美しさを引き出している。全体的に淡い照明のためか、視界がボンヤリとしていて幻想的な美しさでもある。

 学生の頃、映画で見た「キングコング」。舞台は確かこのエンパイヤステートビルであった。あるはずがないのに、キングコングの爪痕などを捜してしまう。女房が見たら「男は可愛いと」言って笑うのだろう。マァ、今日のところは許してやるか。女房のお土産に売店でも見ることにしょう。

テレフォンカードが売っている。度数は50度。日本円で1、500円なり。

 デザインは、マンハッタンのビルの景色が多い。カードの隅にはNTTの文字が見える。思わず買おうとしたが、数秒後にバカバカしくなった。しばらくして、NTTのテレフォンカードをNYで買おうとしていることにはらが立ってきた。

 近くにいたKさんに声をかける。「Kさん、これを見てください。ここまでやられると日本人として嫌になりますね。」同意を求めたつもりであった。しかし、Kさんはまんざらでもなさそうに、2~3枚のテレフォンカードを手に持ってニヤニヤしていた。僕は、バツが悪くなり、夜景の写真を撮るふりをして外に出た。

 外に出てみたものの、テレフォンカードを買い損ねた僕は、女房のお土産を何にしようかと考えていた。


がんになってから、「お布施をすると気持ちが変わる」ことに気がつきました。現在「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」に毎月定額寄付をしています。いただいたサポートは、この寄付に充当させて頂きます。サポートよろしくお願い致します。