【ショートショート】担当なんて死んじゃえ

 スマホの通知画面は適当に追加した公式ラインしか届いていない。彼が連絡 をくれるのは、今はお店の営業前くらいだ。出会った最初の頃はこまめに連絡 だってくれたし、ご飯や、おうちデートだっていっぱいしてくれたのに。 タバコを吸う本数が増えた気がする。だって吸わなきゃやってられない。今 日の客もキモかった。本番はやらないって言ってんのに、しつこいしマジで無理、スタッフいないからって調子こいてる客ばっか。送迎の奴も気きかない し、髪の毛べたべたで生理的に無理だった。
「他のとこに移籍しようかな。」
いや、まだ無理かも。今日も金いるし、もうちょっとで月末だから。今度こそ彼には頂点の景色を見せてあげなきゃ。私たちの将来のためにも。

 被りの女のとこから帰ってこない。クソド新規の芋女のどこがいいわけ。卸 したのだってカフェパ一本だけだし、あんなブスより私の方が、なんて。
「ねえ、あいつ、いつになったらこっちに帰ってくるわけ?」
イライラが伝わったのか、ヘルプの奴がなだめるように近づいてくる。内心め んどくさがってるのが分かりやすい。こいつマジはずれだわ。
「お金、使ったら帰ってくるんじゃない?」
は?使ってんじゃん。今日稼いだ金、11万5千400円全部。生活費だって削って、彼を応援してるのに。
「おまたせ、ごめんね待たせちゃって。」
肩に回ってきた手を思いっ切り振り払う。顔を覗き込まれ、どうしたの?今日 は疲れちゃった?なんて甘い声で囁いてくる。そうだよ、疲れてるよ。でも、 私はこれだけにすがってここまで来たんだ。ねえ、一つだけ聞いてもいい?
「私との約束、覚えてる?」
覚えてるよ、なんて言った彼の顔は、いつもと変わらない笑顔のままで。 気づけば一人、見慣れた街をふらふらと歩いていた。どのくらい飲んだんだ っけ。全然覚えてない。でも、彼のあの笑顔だけははっきり覚えてる。綺麗 な、皆に向けるその顔、私だけが特別なんて。

あーあ、

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