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【ディズニープラス】『フクロウと呼ばれた男』田中泯インタビュー「後半の展開が特に凄い」

映画、ドラマの名作にこの人あり。誰もが畏敬の念を込めてそう絶賛するようになったのはいつ頃からだろう。60年代を皮切りにダンサー、舞踊家として唯一無二の地平を切り開き、57歳にして映画デビューを果たすや、独特のオーラをまとった役柄で物語に重厚感と、格調高さと、ミステリアスな魅力を惜しみなく注ぎ続けてきた孤高の存在、田中泯。

そんな彼が主演するディズニープラス『スター』の最新オリジナルドラマシリーズ『フクロウと呼ばれた男』は、あらゆるスキャンダルや事件を、時にもみ消し、時に明るみにさらして解決してきたフィクサーを軸にノンストップで展開するポリティカル・サスペンス。国家の裏側で暗躍する”フクロウ”こと大神龍太郎という役を田中はどう演じたのか。この作品への思い、彼ならではの役作りのこだわりについて話を聞いてみた。

ーーーとても引き込まれるストーリーで、何よりも田中さん演じる役柄から目が離せませんでした。オリジナルドラマシリーズの主演ということで非常に大きな決断だったと思いますが、どのような経緯で製作が決まったのでしょうか?

田中「実は、僕が同役を演じるパイロット版を、だいぶ前に撮ってるんです。その時はまだどこが配信するというわけでもなくて。「よし製作しよう」という話にまでは至らなかった。

それがディズニープラスさんで大人向けのドラマシリーズを作るということになって、ラインナップ候補にこのドラマが急浮上したんです。その後、僕の出演作をチェックして検討してくれたみたいで、それで「決まりました」と言われて、僕も「ええっ!!」って驚いたんですよ」

ーーー主人公の大神(おおがみ)は社会の特殊な立ち位置に佇む人間です。どのようなところに惹かれて役をお受けになられたのでしょう?

田中「世間からすると、彼の存在は闇で糸引く悪人として見られがちですね。でも信じられないような事件が次々と起こるこの世の中で、きっと彼には彼なりの信念や正義感があるんだろうというところを、僕は探ってみたいと思いました。

あと、フィクサーの歴史を遡ると、元々は占い師だったり、呪術師だったりもする。そういった要素に前から強い関心を持っていたというのもオファーを受けた理由です」

ーーーどのようなアプローチで演技に臨まれたのでしょうか?

田中「僕自身、フィクサーと付き合いがあるわけではないし、本当に実態のつかめない人なんだろうなと感じます。ただ本作は決してそれだけではなく、これまでの人生で家族のことをまったく顧みてこなかった大神の立場が大きく揺らぐ物語でもある。

そこで、自分の年齢を意識し、この仕事もそろそろ切り上げ時なんじゃないかと思いはじめる、その切実な心境みたいなものを僕なりに表現できればと心がけました。歩き方とかもそうなんだけれど、あと、喋り方ですね。なんかこう、次の言葉が出てくるのをあえて堰き止めて、ちょっと間を置いてから、自分に言い聞かせるように声を出す。意識してやるとうまくいかないので、無意識にそういう風にやっているところが結構多かったですね。

実はね、僕、ゆうべ頑張ってシリーズの最後まで見たんです。後半の展開が特に凄いなって思って。多分、次のシーズンに行ってほしいと監督たちやスタッフ、そしてキャストも願っていると思いますよ」

ーーー大神がフィクサーだとするなら、息子役の新田真剣佑さんは真正面から社会の闇に切り込もうとする役柄です。お二人の共演シーンはいかがでしたか?

田中「真剣佑さんとは、ずっと共演したいと思っていました。海外で放浪されたこともあるとも聞いて、深く考え抜きながら若い時代を生きてきた方だなという印象を持っています。だから僕もご一緒できるのを楽しみにしてたんですね。各々が独自のルートで核心に迫っていく物語なので、共演そのものは多くないんですけど、肝心の場面はすごくよかったです。とても納得のいく親子シーンに仕上がりました」

からだ全体を目的や喜びの感覚で満たしていく

ーーー今回の役のたたずまいもそうなのですが、田中さんの出演作を拝見するたびに、この方の発するオーラやただならぬ存在感の正体は一体何なのだろうと、圧倒されます。

田中「僕はダンサーなので、むしろ役を自分の方に引き寄せてやっているというのが正直なところです。

僕がおどりの時にいつも意識しているのは、歴史上、おどりは言葉よりもずっと前に生まれたものだということ。今すごく嬉しいとか、もっと楽しくなろうよっていうのを互いに伝え合う、共同体のコミュニケーションの道具だったんだろうと思います。

そういった部分を相手に伝えるためにどうするかというと、頭から指先まで、からだ全体を目的や感覚で満たしていく。それがどのくらい満ちているかとか、あのひと今にも飛び上がりそうなくらい喜んでるねとか。そういうのって言葉で説明する以上に、からだの様子で伝わるものでしょう。

その延長で、たとえば武道などでもよく言われるように、ぱっと手を出すだけで何かしらのパワーが放出されているのを感じたりというのはあると思う。”オーラ”や”存在感”がどうかはわからないけれど、こういうことって、ダンサーの僕にとって得意とするところなのかもしれません」

ーーードキュメンタリー作『名付けようのない踊り』の中で、「『たそがれ清兵衛』の時はただただ必死になって考え続けた」と語っておられました。あの鮮烈な映画デビューから 22 年が経過し、田中さんにとっての演技への取り組み方は変わりましたか?

田中「いや、ずっと何かに出演するたびにもう勉強、勉強です。怖いなーって思いますね。僕は本来しゃべったり書いたりとかすることが苦手で、30歳ごろまではそういう言葉にする作業を脇に置いて生きてきた人間です。ただ、57歳にして、初めての演技に挑んだのが山田洋次監督の作品だったというのは大きかったですね。せっかくお誘い頂いたので1回はやってみよう、と。

その後、『メゾン・ド・ヒミコ』の時は、生意気にも「台本を読んでから決めます」なんて答えたりして。それで、この作品を僕にやってほしいっていう人は一体どういう人なんだろうと興味が湧いたんですね。すると、犬童一心監督がすぐに訪ねてきてくれて、安心して決断することができた。今思えば、あれが 2作目だったことも良かったのかもしれないな」

ーーー映画やドラマで演じる上で、目標とするもの、これから挑戦したいことなどはありますでしょうか?

田中「いや、ないですね。5月に新作の撮影があるんですけど、今はその稽古もやっていますし、来年に向けての準備もある。そういった状態が一年中、途切れることなく折り重なっていて、同時に、おどりの活動もあります。

目一杯と言えばその通りなんですが、この2、30人分の人生が生きられそうなほどの状態は決して嫌いじゃない。 むしろよかったなぁ、なんて思っているくらいです。

僕の生き方にはあまりモデルがいません。おどりに関しては特にそうですね。せっかく生きてるんですから、自分がやってみたいこと、まだこんなことができるんじゃないかってことをずっと引き続きやっていきたい。だから、あそこがゴールだというのではなくて、むしろ終わる時はパシャン!って閉じることになるんじゃないですかね」

田中泯(たなか・みん)/1945年、東京都生まれ。1966年より独自の舞踊スタイルを展開。2002年『たそがれ清兵衛』で映画デビュー

『フクロウと呼ばれた男』ディズニープラス『スター』で 独占配信中
エグゼクティブ・プロデューサー&脚本/デビッド・シン 演出/森義隆、石井裕也、松本優作 出演/田中泯、新田真剣佑、安藤政信、⻑谷川京子、中田⻘渚、萬田久子
【あらすじ】
国家の黒幕として暗躍する大神龍太郎。次期総理候補の息子が謎の死を遂げたことで、龍太郎は国家の裏側から、政界に潜む巨悪の正体へと近づいていこうとする。一方、対極的な生き方をする龍太郎の息子・龍も真正面からその謎へと迫ろうとしていて……。

取材・文=牛津厚信 text:Atsunobu Ushzu
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