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56話 - 感想 『囀る鳥は羽ばたかない』

噛みつき合うような攻防に突然響く、無防備で柔らかい音「好きだよ」。恋愛の代名詞のような、正面から相手を射抜く台詞。百目鬼に抗う術もない。やばいですね(語彙力はどこ)

私は56話、矢代さんが探してた「昔のお前」がやっと矢代さんの元に戻った、そう感じました。

1) 問い詰め

「刑事のネタなので…」(55話) 確信も持てないし、動画を観ても井波以外の事は分からない。
言いたい言葉をグッと堪えつつも追及がキツかったのは、きっと百目鬼もキツかったから。優しく抱いた事が矢代を変えたと確定すれば、この4年間、この数日間、苦しめ続けた事も確定する。

① 同じ事

相手の秘密(4年間不能だったのに自分に反応した事)を暴き、反応する=したいだと言わんばかりに誘い、下半身を自身のと密着させ、拒んでも誘い続け、他に想い人がいる自分への告白をさせ、嫌だと言われた事は「あれ、だめだった?」と返し、「気持ちとかどーでもいい」(やりたいだけ)と言い、挙句には「やっぱりお前は抑えつける方が好きなのか?」と父親の呪縛を突きつけた。

嫌な書き方をしましたが、これらは23話で矢代がした事今回の百目鬼の行為はそれと随分似てると思いました。
そして「…好きなのか?」に一瞬凍り付き、顔を歪め「そうですね…」と肯定した。父親の影に心くだけたのは百目鬼も同じだった。決して矢代だけではない。(「台詞」は全て23話内)

② 2人の笑顔

2人が笑顔を見せた56話ですが、見たかった笑顔ではないですよね

・矢代の笑顔

「これが俺の手放せない”俺”だよ」「笑ってくれよ」と言ってるみたい。
逃避し、否定し、怒り、観念し、その先の笑顔…また「悲しみの果て」(52話感想で出した曲)を思い出した。もう自分を笑う以外に何が残ってる。自分の蒔いた種だと、因果応報だと、しょうがない奴だと、笑い飛ばし少し距離を置く。他に何ができる。
 一方で「笑ってるようでキレてる」や撃たれた際の会話など…、"苦痛や怒り" と "笑顔" を結びつけて育った様にも思える。

・百目鬼の笑顔
百目鬼こそ酷い事を言われてきた。自分を曲げ泥水を啜った4年間を、他でもない矢代に「女もできて随分リア充」と言われたら普通は傷つく。でも鼻で笑う様な乾いた笑みだっただろうか。百目鬼には珍しい書き込みの多い黒目からは潤みや柔らかさも感じた。矢代は見ていなかったけれど、かつて心奪われた影山の笑顔に少し似た顔。辛い嬉しい

2) 降参と告白


石橋を叩いて叩いて叩いて……沢山叩くのは進みたいから。でも進むのが怖い。期待と失望はセットだから。幸せになる伸び代はいくらでもあるけど、これ以上傷つく余地がない。
「拒否されたら俺は多分簡単に傷つくのだろう。確実に」(漂えど…) ならリスクもリターンも手放す。
 たった数日で沢山傷付いた。女がいると知り、淫乱呼ばわりされ、酷く扱われ「満足しましたか」と言われ……百目鬼にされたら嫌だった。
幼い頃ずっと言えなかった「僕こういう事されるの嫌だ」を捻り出そうとしてた。でも、きっと追い込み過ぎてしまったのかな。何度も押し付けられた言葉が蘇り「そうだ、仮面をつければ身を守れてきたじゃないか」という実績が勝ってしまったのかな。でもきっと十分、もう百目鬼は酷くしたり、追い込みはしない。矢代さんよく頑張ったね…と思いました(何様かな)。

攻防を制したのは、どうめき虐待ぎふ、2つの呪いに囚われ”どうにもできない”矢代の小さな声。素直であり素直でない「好き」、その両方が百目鬼を突き刺す。

① 素直じゃない「好き」

小動物が最後の力を振り絞るような抵抗。あんな顔されたら「助けて」にしか聞こえない。
さっきまでの、心ここに在らずで涼しく整った顔はもう無い。感情との距離感を失った矢代は、穏やかでないし、諦めきれないし、涼しく整った顔でもない。「壊しません 絶対に」と言ったのに、目の前の矢代は今にも崩れ落ちそう。

しかし同時に、見て良いのか戸惑うほど赤裸々で、誰にも見せないだろう顔をされたら…告白にも近い。
「俺以外が助けんのすら許さねーと思った」(18話)を思い出した。自分に本音と否定を吐いた七原に対し、矢代がそう思った理由は違う印象ですが、感情自体は近いのではと感じた。

② 素直な「好き」

目の前の大事な人は、女と普通の幸せを送れる。「ひん曲がった自分に従うこいつが不憫で捨てた」矢代が「好きだ」と包み隠さず言えるだろうか。きっとこんな機会にこういう言い方しか出来なかった。
 それでも「好きだよ」を正面から受けた百目鬼は放心状態。追い込んだ自責もあっただろうけど、垣間見えた素直さに、どきっと全身を駆け巡る衝動の方が強かったように見える。正直あんな顔されたら全てどうでも良くなってしまう。

3) 「それ以外にありません」

① おかえり百目鬼

ずかずかと踏み込む百目鬼に、終始緊張する矢代さん。私も一緒に緊張していたのですが「ただやりたいだけです」の顔で悶絶。あまりにも可愛い…「おいおい耳がうっすらピンクだぜー?」(1話)を思い出し、ウソが下手な奴にしか見えない(個人的解釈です)。
続く「それ以外にありません」「フ…」
1話「秘密はもうありません」「…(笑)」と重ね、悶絶を極める。(次のコマも1話後半「ホンッとウソが下手な男だなぁ」と笑う矢代を"じっ…"と見つめる百目鬼と勝手に重ねる)

  「俺しか欲しくなくなるように…」そんな呪いをもらい取り残され、独りぼっちだった矢代。「昔のお前ばっか探してる」(53話)…その百目鬼と不意に再会し、やっと心の拠り所を見つけた。そんな「フ…」に感じました。そして、相変わらず嘘をつき自分を気遣う姿に「そう言う所が腹立つ(好き)」と首を引き寄せた。そんな風に見えました。
 この見方の私には「いいなそれ」は ”(嘘ヘタだけど)そう言う事にしといてやるよ”に聞こえました。「それ」は百目鬼の提案 ”嘘を追及しない協定” の事かもしれないし、その“可愛い表情”の事かもしれない。素直に "やりたいだけの関係" の事かもしれない。いずれにせよあの瞬間矢代の緊張が解けた。

フ…を「そう、お前も俺の事そういう扱いしてくれ」など諦観で捉えていたら56話を辛く感じたかもしれない(初見の気持ち以外分かりませんが)。でも私にはあの百目鬼が、この回答どうですか?大丈夫ですか?とお伺いを立てている様で可愛くて仕方なかった。なのでそれを投影しました。やりたいなんて言葉、似合わな過ぎるよ百目鬼。

② 取り付く島(モラトリアム)

1人だけと「相性がいい」矢代と、顔をあからめて「やりたいだけ」と見つめる百目鬼。こんな嘘の下手な2人があるか。百目鬼の嘘がどこまでバレたかは、まだ先を見て判断(もろバレ希望ですが囀るだからな…)。
 可愛くて残酷な子供みたいな協定。2人でこの嘘を共有する。誰も入れない2人だけが共有する世界は、相合傘みたい…なんて。
 建前も理屈も脱ぎ捨てた裸で、ただひたすらに相手を求め、相手に求められて。この瞬間の2人を私はもどかしくも幸せだと思う。束の間でも、正直で素直な時間。
ただ、自分に嘘をついている矢代さんはきっとすぐ辛くなる。嘘をつく事と認める事はセットだから。

不器用な2人が器用に見つけた取り付く島は、本来いつまでもそこには居られない、一種の猶予期間(モラトリアム)。その言わば消費期限の中で、嘘を溶かし合えれば…銃も争いもない穏やかな世界だったなら、ゆっくりと。

4) その他

・フェ…の格好
脚をホールドする百目鬼と、必死にしがみ付き体重を委ねていく矢代。矢代の為なら人柱ひとばしらにでもなる、そんな関係が可視化した様に見えました。全て捨てて素直になって欲しい、それで崩れるなら俺が支える。全てが自分に伸し掛かろうと絶対に崩れ落ちさせない、と。(フェで感動する人はいよいよ重症)
 その後も、完全に沸点を超えた顔してるのに「これ何の…」という矢代の不安には行為を中断し、片肘ついて対応(右手から推測)。騎士ですか。武士ですか。


・私の中の前提を1つ(すごくサラッと)…

私は今2人が何より「両思い」を求めてる様には思いません。互いの死を垣間見、今尚その世界にいる2人は「(死や苦しみから)守りたい」だと思うのです。苦しみには自虐も含みます。”百目鬼の母性“や”一方通行の黒羽根に似てる”などと書いた頃(5月投稿分)から見解はまだ変わりません。
 それが全てという極端な見方はなく、最上階の望み「自分を愛してほしい」との間に「自分を受け入れてほしい」「相手の何者かでありたい」があるなら、2人の関係はそこにおける“一時の正解“だと思いました(でも百目鬼の願いはこれらでもない)。
 これまでの百目鬼は、矢代を守れるなら相手が自分でなくても身を引いたかと思います(それは矢代も同じ)。でも今回「俺が」が強まったと感じました。俺以外は許せない、と。今後は矢代が自分を受け入れる関係を保守すると感じます。
※多分すごく言葉足らず

・「逃げないように」※独り言
(今回の煽り文や)モノローグ等のは、個人的にはないままも好みでした…でもこの展開を前に明記が必要だったのも分かる…けどない方が好(しつこい)
 百目鬼は「逃げないでください かしら…」と伝え、矢代自身には逃げた自覚もあった(夢の中)。でも、百目鬼を拒むのは何も「逃げたい」だけではない…矢代もまた心底優しくて一途な人。それを承知の上での「女」だろうか。多分違う。きっと ”セフレ関係”まで降りる為。
…例えば「女がいる」じゃなくて「男がいる」と言ってみたら(失礼しました)。


・逃げ場 ※独り言
52話までは、セフレスタートだろうか…と少し思った。でもあんな突き放す抱き方をしたので気づけばその路線を消していた…「逃げ場はない」と前回書いたけど、そうか…内にも逃げ場があったんだ。でも、外的要因(義務)でなく内的要因(したい)と認め合ったのは大きいし、何より矢代が受け身でなくなった兆しが嬉しい。

・謝らない ※独り言
よね…そんな百目鬼が大好きですが、もっと自分にも優しくて良いのに。「すみません」より「綺麗だ」を口にしてほしいけど…

・タバコ
「月が綺麗ですね」が「我君を愛す」の如く「甘くて苦い」は「叶わない初恋」に聞こえます。タバコを消すのは、恋慕(感情)を一口味わって押し殺す様にも見えたし、矢代の悪癖(煙の様な男達)を絶つ様にも見えた。

・SD
現物(動画という物的証拠)で強請ゆする手口は、井波と一緒だy(やめろ)
2人を強力にサポートしたにすぎない井波に教えたい。貴方の大好きな矢代もかつて、殴られながらもキューピット役を買って出たのだと。井波渾身の善行…

最後にはなりましたが、「悪事身に帰る」因果論を身をもって啓蒙した、その功労をここに称えます

また井波で〆てしまった

おわり。

【あとがき】

4)その他
をさよならすればいつもの文字数(約3000)です。18000字→4500字まで頑張りましたが、またそっ閉じマインドになってるのでもう投稿します。一番嬉しかった事や「節操がない」など沢山さよならしましたが、Xかどこかで共有したいです。
 何かを途中で判断するのは難しいですね。でも私は「正解」より「その時自分が何を感じたか」「何を感じさせてもらったか」の方がずっと大事だと思います。

「今、この手を離したら」


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