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【読書記録】それからはスープのことばかり考えて暮らした

吉田篤弘さんの小説。

失業中の身であるオーリィ君は、とあるきっかけからサンドイッチの店「トロワ」の安藤親子と出会い、やがてその店で働くこととなる。
しばらくして、「サンドイッチに合うスープ」を作ることになったオーリィ君は、その事ばかりを考えるようになり……。

ほっこりとした、優しい物語。
でもどこか、悲しさというか、現実味を感じるところがあって、ただ優しいだけの物語ではないと思った。

例えば、オーリィ君には姉がいて、幼い頃道に迷っていたのか、知らんぷりをしてわざとそうしていたのか、「遠まわり」としていた、というエピソードが描かれている。
しかし作中では、「インターネットで地図をプリントアウトしてきた」といい、もう道に迷うことがなかった。

もう、遠まわりはしないの?
そう姉に訊いてみたかった。

このたった二つの短いオーリィ君の心情を表す文が、どこか悲しげで、寂しげで、大人になるとはこういうことなのかな、と思った。

個人的にサンドイッチ屋「トロワ」の息子、リツ君(小学四年生)がちょっとひねくれてて、可愛くて、時々大人である自分に刺さることを言う。
(先程の遠まわりのエピソードにも、リツ君は出てくる)

「その、知らんぷりするっていうのと、嘘をつくっていうのは、おんなじことなんですか?」

地味に難しい質問をするなあと読んでいて思った。

もちろん、スープに関する話(あおいさん、というおばあちゃんが中心となる話だ)も好きだし、それがメインの話なんだろうけれど、こういった少し周りの人々を掘り下げていく話もいいなと思った。

拙い感想ですが。
要するに、この本のこと好きになりました。
あと、サンドイッチと温かいスープが食べたくなりました。

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