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人間臭さの交差点 ールポーイマジネーション・ピカスペースー

 「あ、そうだ、ピカに行こう」
 仕事が早く終わった空き時間、気負わず足を運べるのがイマジネーション・ピカスペースだ。

 恵美須町駅の階段を上がると目の前には通天閣。新世界商店街の終わり近くの、味があると言えなくもないボロボロの扉を開く。「よっ、べっぴんさん良く来たね」と出迎えてくれる店主は気仙沼はるきさん(38)。ペンネームの通り気仙沼市出身だ。痩せ型の長身で小顔、読書好きで話題の幅が広い。一時期は陶芸家を目指して携帯も持たず山籠りしていたこともある。

 ピカはイベントスペースだ。お酒とアテを楽しむ通常営業の日もあれば、名の知れたミュージシャンのライブが行われる日もある。常連客の誕生日パーティーがイベントになって「料理作るのめんどくさいから、持ち込みオールオッケーにします」といったはるきルールがまかり通る日もある。初来店の人とも以前から知っているかのように会話を交わす。

 この店のオープンには東日本大震災が影響している。はるきさんは、震災の直後は甚大な被害を受けた故郷で何も出来ない自分に苛立っていた。その彼を、関西にいた仲間が「この大阪の地でとにかく何かを始めよう」と引っ張り出して来たのだ。空き店舗を改装し、仲間たちの手でピカを作り上げた。さらにシャッター商店街となりつつある新世界市場の復興にも務めた。街の掃除から電球の交換、お店PRのお手伝いまで無償で何でも手伝った。「よそ者」だったはるきさんも今ではすっかり街の人だ。

 10畳ほどの店内の一番の見所は真っ赤な天井。店主や客が思いつきで吊り下げた無数のオブジェで埋め尽くされている。マネキンの頭、万馬券、ミラーボール、榊まで様々。

 ある日曜日の夕方。2日前にも同じ場所で顔を合わせた常連客が「よぉ」と声を掛けてくれる。かつて年商20億円以上の会社の経営者だったが、ストレスでリタイア。今は通院をしながらここでの交流を楽しみにしている。隣のテーブルでは女の子が一人煙草を喫いながら手酌でお酒を飲んでいた。「りょうちゃん、こっち座んなよ」はるきさんが声を掛け同じテーブルを囲む。週末に開催される花見への誘いを掛けると、笑顔で「行く!」。ピカでまた新しいご縁が生まれる。

 学生にサラリーマン、八百屋に住職、主婦、無職。ピカに集う人は実に様々な肩書きを持つが、みな口を揃えてここは「楽だ」という。肩書きを下ろして素の自分でいられる。

 遠方から友達が来るので前もってピカに予約を入れていた。その友達とはるきさんの仲は私より古い。予約日の前日にメールが届く。「ごめーん、明日ボクのカノジョの誕生日だからよそでやってくんない?」思わず笑ってしまう。友達に告げると「もー」と怒るが目は笑っていた。
 数日後、穴を開けたその友達だけのために昼から3軒はしご酒をし、夜はピカで宴を開くはるきさんの姿をSNSで確認。お酒が入りビーサン姿で笑う写真の中の彼はどこまでも陽気だ。友達は楽しすぎて帰りの船に乗り遅れたという。ピカ一番のチャームポイントは、はるきさんの人間臭さ。

#ルポルタージュ #ルポ#大阪#ピカスペース#エッセイ#関西


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