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花束を君に

「普段からメイクしない君が 薄化粧した朝」

このフレーズから始まる宇多田ヒカル氏の曲「花束を君に」は、亡くなった母への手紙だという。

布団の中で眠る、もう二度と目を覚ますことのない祖母の顔に白布を被せたあとで、ふとこの歌を思い出した。

我が家から車で五分もしない距離にいた母方の祖母は、亡くなる一週間前にはまだ畑仕事をしていた。
いつものように電話が来て、「煮物が出来たから取りに来い」と言われた。
次男にじっと見つめられて嬉しそうに笑っていた。
長男が保育園から帰ってくると大きな声で「おかえり」と声をかけてくれた。

全部全部、一ヶ月以内の話。本当につい最近の出来事だ。

彼女ほど働き者な人はいなかった。
夏は、朝6時から畑で鍬を振るう音が聞こえていた。
その音で目を覚ますのが私は好きだった。

3家族、大人10人以上分のご飯を作り、食べさせてくれた。祖母の煮た黒豆が長男は大好きだった。

決して人を悪く言わず、愚痴をこぼさず、限界が来て「入院したい」と言うまで元気な姿を見せ、最後まで自分の身の回りの片付けの心配をして指示を出していたという。

入院してから一週間と経たないうちに、祖母はこの世を去った。
連休が明けたら病室に面会に行こうと思っていたのに。

結局、私が覚えている最後の姿は、畑仕事をしている背中だ。大きな声で「おかえり」と声を掛けてくれた元気な祖母だ。

あまり弱みを見せたがらない人だったから、もしかしたら病室で横たわる姿を最後の記憶に残したくなかったのかもしれない。
孫達、ひ孫達にとって、祖母は「元気に野菜を作って美味しい料理を作ってくれるおばあちゃん」の姿のままでいたかったのかもしれない。

......というのは、私の都合の良い解釈だけど。

母方の祖父母は2人の子どもを持ち、その子ども達から私を含む5人の孫達が生まれ、その孫達から6人のひ孫が生まれた。

たっぷりの愛情で育った子ども達、孫達が、同じくらいたっぷりの愛情をもって、おばあちゃんのひ孫を育てているよ。
おばあちゃんが植えたスナップエンドウがたくさん実をつけて、今、私達の食卓を彩っているよ。
玉ねぎやじゃがいもやそら豆、とうもろこし。おばあちゃんが毎年植えてくれていた野菜が次々実っていくよ。
たくさんの愛情と栄養をありがとう。おばあちゃんの大事にしていた想いはちゃんと受け継がれていくから、安心してね。
これからも思い出の中で、ずっと笑っていてね。


2022/05/18 記


公開しなくてもよかったんだけど、私一人の中に祖母への気持ちをしまい込んでおくのもちょっと悲しかったので。
私の心はまだ4月末あたりに置き去りになっていて、上の空で過ごした5月ももうすぐおしまい。

来月はもうちょっと笑って過ごせるといいな

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