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小説|はやだき

 4時間目後のお昼ごはんで食べたのは自分で握ったおにぎり×2個と、高校の玄関外にある自動販売機に売っている100円の紙パック野菜ジュース。普段は水筒に麦茶を入れて持っていくんだけど、今日は不慣れなのに自分でおにぎりを握ったから、バスの時間がギリギリになっちゃって、水筒を家に忘れてきてしまった。お母さんからもらった「お昼ごはん代:500円」をそのまま自分の分にできると思ったのに。野菜ジュースを買っちゃったから500-100で手元に残ったのは400円。
 お昼ごはんを食べ終えて迎えた5時間目。いつもなら500円使い切って買ったパンが胃袋に溜まって、窓際に座る私に降り注ぐ日光も相まって眠気が最高潮に達する時間だ。でも今日は違った。目が冴えていた。自分で握った味気ない小さなおにぎり2個ではお腹が満たされず、すでにお腹が空いている。
(おにぎりなんて、米に塩混ぜて握るだけなのに、なんでうまく作れないんだろう)
 私はそんなことを思いながら、授業中にお腹が鳴って恥をかかないよう、下腹部にグッと力を入れていた。ちなみに5時間目は数学。数学のT先生が2週間後に予定されているテストの範囲がどーとか、難易度はこれくらいとか、くだらない話をしているとき私は考え事をしていた。
(…そういえば今朝、炊飯器洗ってないな)
(やばい、お母さんより早く帰らないとおにぎり作ったのバレる)
(いやでも朝ごはん食べるためにお米炊いたとか言えばいいかな)
(でもでも私普段から朝ごはん食べないの知ってるもんなあ、お母さん)
(「なんでお金渡してるのに、自分でおにぎり作っていくの!お金返しなさい!」とか言われそう)
(あ〜最悪、お母さん今日早番だよなあ。ダッシュで帰って炊飯器洗えば間に合うかな)
 お母さんは早番のとき16時半〜17時の間に帰宅する。バスの時刻表上、私がどれだけ急いで帰っても家に着くのは16時半少し前だ。
(なんとか間に合うかな?)
(でも、待てよ。炊飯器洗ったとして、洗い終わったばかりだと、釜に水気が残った状態でお母さんが帰ってくるんじゃ…)
(なに言ってるんだよ私は。タオルで拭けばいいだけじゃん)
(母親は濡れたタオルを見て何か勘付くか?…いやいやそこまで頭は回らないでしょ)
 さっきも言ったように数学のテストの話なんて本当にくだらないものだ。お母さんより先に家に帰って、炊飯器を洗う計画に比べれば。

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