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短歌十首/バッティングセンター

海だから哀愁帯びた顔なのかならば一緒にイオンへ行こう

溜息と重たい身体を引っ提げてコロッケ作ろうやめた酒飲む

別れようザワークラウト漬ける間に君から電話穏やかな午後

適当になんでもいいから外に出る新しい靴おろすときは今

両手には押し込められた感触が金属音すら追い越し走れ

スーツ着たゆっくり歩くおじさんと傍ら歩く短足の犬

駅ホーム立ち食いそば屋の客4人きっとスーツに出汁が染みてる

そうだともさしずめ俺は古臭く田舎に光るゲームセンター

女から言われた「バカ」の意味合いを知り得ないまま男は死にゆく

捨てられたレシート集めて折り紙をあなたの生活わたしの手の中



 友人とバッティングセンターに行くことがある。いくつかのゲージから聞こえる金属音や打球の行方をぼんやり眺めているのが好きだ。
 バッティングセンターもいくつか種類があると思っていて「エンジョイ勢」向けと「ガチ勢」向けのものがある。「ガチ勢」向けのバッティングセンターというのは、練習着姿の子どもが一切笑顔を見せず無言で打球を跳ね返し、それを後ろで金網を掴んでアドバイスを送る親がいるようなところだ。父親はなぜか偉そうに身振り手振りを交えながらアドバイス(というか説教に近い)を送る。子どもは口を真一文字に結んでうんうんと頷き、再びバッターボックスに戻っていく。こうした親子がいるバッティングセンターは私のような「エンジョイ勢」からすると非常に居心地が悪い。「うちのバッティングセンターからプロの選手が出ました!」と謳うような店も同様だ。私は見知らぬ親子の真剣な指導の場を見たいわけでもなく、プロを目指しているわけでもない。自分がたまに良い当たりを打つことができて、友人のバッティングをぼんやりと見る、そんな空間で充分なのだ。地元のヤンチャな人が夜な夜な集まるような、少し治安の悪そうなバッティングセンターの方が私にとってはちょうどよい。

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