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生活保護のリアル、そしてどんでん返し!!原作・「護られなかった者たちへ」のあらすじ・感想・レビュー【2021年映画化】

「護られなかった者たちへ」の概要

著者:中山七里
発行年:2018年
あらすじ:餓死させるという残忍な手口の殺人事件が連続で発生。捜査を進める警察と、犯人ではないかと怪しまれている人物、利根勝久。連続餓死事件の被害者は、共通して福祉関係で従事する(もしくはしていた)、行政の人間であった。犯人はだれなのか、動機は何なのか、謎が謎を呼ぶ社会派ミステリー。


「護られなかった者たちへ」の感想・レビュー

まず、この物語は、作者・中山七里さんも「事件の犯人はわかっても、物語の犯人は読み終えた後も誰にもわからない」おっしゃっているように、強いメッセージ性を持った作品です。
あらすじにも引用した通り、生活保護という制度に関わる人々の物語で、生活保護という制度の中で、受給可否の判断を下す行政の考え、貧困にあえぎ明日の生活もままならない受給者としての考え、そしてそれぞれの周りの人々の考え、それぞれの考え方が食い違い、交錯していきます。

厚生労働省のホームページによると、生活保護制度は、そもそも生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としています。
その一方で、この物語にも記載のあったように、生活保護を受けられず餓死してしまった事件は、複数あります。
それはつまり、健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度であるにも関わらず、そういった生活を送れず亡くなってしまう人がいるということであり、制度が機能しきれていないということです。
この物語を読んだ限りでは、その原因は、大きく3つあると考えられます。

1. 自助・共助・互助機能の喪失
自助・共助・互助とは、以下のように自分や周りの人々で助け合うことを指します。

自助:自分や家族の命を守ること
共助・互助:
隣近所、地域コミュニティが一体となった活動により、助け合うこと

現代では、核家族化・デジタル化などにより、「他の家は他の家」、「家庭内のことは家庭内で解決する」、「下手に口出しして、迷惑を被るかもしれない」といった風潮があります。そういった状況の中で、自助・共助・互助機能が衰えていっています。
そのため、生活がままならなくなって身動きが取れなくなったとき、遠い親戚には頼れない、他の人には頼れないといった気持ちが芽生えてしまい、初めから行政を頼ることになります。しかし、行政側としては、初めから頼られても予算があるため、他に頼れる人を探してほしいということで、お互いの考えが食い違ってしまいます。
その結果、どうにもならない生活の中で、我慢を続けてしまい、最悪の結末を迎えてしまうことがあるのです。

2. 生活保護制度の悪用による予算不足
新型コロナウイルス給付金の際にも給付金の不正受給問題が発生しましたが、生活保護制度の悪用事例も多々あり、そんなに生活には困っていないにもかかわらず、生活保護を受けている人が多くいます。様々なパターンがありますが、受給可否の判断を下すのは、公務員であり、一人の人間でもあるため、脅しなど強硬な手段に出るような人に対しては、職務への責任よりも恐怖が勝ってしまいます。
この問題は、どの制度でも多くあることで、こういった制度の悪用により資金調達をする反社会的勢力も存在します。
本当に困った人を助けるはずの生活保護制度が悪用されることにより、決められた年間の予算を適正に使えなくなってしまいます。

3. 行政の財政難による現場を考慮しない水際作戦
この「水際作戦」は、この物語でも多く描かれていたもので、「窓口で生活保護の申請をさせず、「水際」で阻止すること」を意味します。水際作戦を行う理由は、複数あり、コストカットや自治体による生活保護受給率の格差、悪用の徹底的阻止などです。
水際作戦は、保護申請に来た人に実際の制度とは異なる説明をしたり、生活保護を受けられない理由をつけて、他の窓口をたらいまわしにさせたり、違憲と言われても仕方ないような悪質なものです。
これでは、本当に困っている人は、事情も聞かれず、門前払いされてしまうため、頼みの綱が一瞬で切れてしまいます。
また、この水際作戦。窓口で対応する人は、上の指示に従う必要もあり、困っている人を助ける本来の職務をこなす必要もあるため、板挟み状態になってしまいます。

この3つの問題、一筋縄ではなかなか解決できないように思いますが、少なくとも我々ができること、それは、
「生活保護は関係ない制度と思って過ごすのではなく、一人ひとりが自助・共助・互助を少しでも意識すること」
です。この意識だけでも解決の大きな一歩となることは間違いないと思います。

まとめ

生活保護は、基本的には、何重のもセーフティネットから落ちてしまった人に対して、最低限の生活を保護するための制度であり、働くことができず(健康)、親族や地域の人々で頼る人もおらず(人との繋がり)、たった数か月も生きる伸びるための資産がない(貧困)、そのような人が利用するための制度です。
この3つを1つずつ考えていくと、まず健康については、その症状や期間、頻度によりますが、何かしらの治療が必要です。治療には、費用が掛かります。もちろん、重度な障害などには、国の制度により、一般的には補助金が給付されるようになっています。しかし、補助金が給付されない程度であるけれど、心身の不調により働けない場合は、治療するためのお金プラス生きていくためのお金が必要になります。そのため、健康体でない場合は、どうしてもお金が必要になります。

続いて2つ目、人との繋がりについてですが、核家族化・デジタル化が進み、現代社会では、地域コミュニティがかなり希薄になっています。そういった状況の中、働けず、貧困にあえぐ人達は、そもそも人と会う機会の減少や自分と他人の環境の違いによる疎外感により、人とコミュニケーションを図る機会自体が減っています。
親族を頼ろうにも、核家族化の進行により、頼られた側としては「迷惑」、「行政を頼ってほしい」といった意識が昔よりも大きくなっていると考えられます。
そういった中で、他人に頼って生活を支えてもらうことは至難の業であるといえます。

最後に、貧困についてです。私は、この物語の根本かつ最大の原因は、貧困にあると考えています。お金さえあれば、十分な治療が受けられ、疎外感も減っていき、働ける状態になれば、どんどん人との繋がりも増えていきます。つまり、お金があれば、1つめの健康、2つ目の人との繋がり、どちらについてもある程度は解消していけるのです。
(注記ですが、何重のもセーフティネットから落ちてしまい、身動きが取れない状態にある人の話であり、もちろん、お金より大事なものはたくさんあります。)

繰り返しになりますが、まずは、「行政が本来の目的を間違えることなく、正しく適用すること」、そして、「親族や近所で助け合っていくこと」が解決に不可欠なものと思います。

余談

・この作品は、Amazon kindle unlimitedに入ると無料で読めます。月会費はかかりますが・・・。

・あまりミステリーを読むことはなかったのですが、結末に驚愕して感動して、鳥肌が立つほどだったので、本当におすすめです。中山七里さんは、どんでん返しで有名でもあるようで、他の作品も読んでみようと思いました。

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