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恐るべし裏社会!「テスカポリトカ」のあらすじ・感想・レビュー

概要

著者:佐藤究
発行年:2021年
あらすじ:メキシコの麻薬密売組織のトップであるバルミロ、そして麻薬密売組織から逃げてきたメキシコ人の母と日本人の父の間に生まれた少年コシモ。この2人をメインとして、心臓外科医・末永や殺人兵器として育てられる人達とともに、心臓売買のビジネスを行っていく物語です。

感想

テスカポリトカは、「異質」という一言に尽きます。
あまりこういったクライムノベルを読むことがないからなのでしょうか、臓器売買の計画や宗教の思想について詳細に書かれており、理解しがたい部分も多くありました。
ただ、今まで見た小説や映画とは一線を画したリアルさの追求と犯罪のスケールに一気に読み進めてしまいました。

コシモはメキシコから命からがら逃げてきた母親とヤクザの父親のもとに生まれ育ち、日本でありながらまったく教育も受けられない環境で育った少年です。そのため、言葉もうまく話せず、理解できず、字もうまく書けず、善悪の判別がつかない人間に育ってしまいます。しかし、生まれ持った力が強く、怒ると、簡単に人を殺められる力を持っています。その故、心臓売買のビジネスに巻き込まれてしまうのですが、これは一重に適切な教育を受けていなかった影響であると思います。

教育を受けていないから、素晴らしい力を持っているにもかかわらず、犯罪に加担してしまうことになってしまったのです。

コシモは、犯罪組織の中で心臓売買という犯罪に加担していることにも気づかず、バルミロに教えられたアステカの神話に基づく思想から物事を判断していきます。アステカの神話に基づく思想は、生贄をささげるという過激な部分があります。教育を受けていない状態で、何も知らないまま、その思想を教わり、すべての行動基準がその思想となっていく様子がリアルに書かれていました。

最終的に、コシモが聞かされていたルールを守らなかったことにより、心臓売買のビジネスの首謀者であるバルミロと対決することとなります。

しかし、コシモの片言の言葉やぎこちない行動がそのまま文章として描かれているため、コシモが犯罪に気づいて正義感からバルミロと対決したのか、自分に嘘をつかれたと思ってバルミロと対決したのか、バルミロに殺されそうになったから成行でやり返したのか、コシモの心情は細かくは理解できませんでした。理由はおそらく複数あると思いますが、犯罪の内容を理解して、善悪の判断を行えるような状態ではなかったので、成行で対決したという理由が一番大きいのではと思います。教育を受けて、善悪の判断ができるようになるということの大切さを痛感しました。

他にもこの小説では、貧困に窮して、仕方なく犯罪に加わってしまう人や命がけで他国に逃げだす人が出てきます。貧困による悪影響は、あらゆる面で発揮されます。そして、貧困は、麻薬と密接な関係にあります。なぜかというと、一日生きる伸びることがつらいほどの貧困状態で、唯一手軽に現実逃避できるツールであるからです。ほかの娯楽とは桁違いの幸福感を得ることができ、かつ依存することにより、貧困の悪循環はより強度を増してしまうのです。

一度貧困に陥ると、悪循環に陥り、抜け出すことは到底困難であると感じました。貧困とは、社会全体で向き合っていく課題であると改めて思います。


この小説は、麻薬ビジネスや臓器売買などの裏社会の側面やアステカ文明の思想を切り口に、教育を受けられない家庭環境など、貧困からくる不条理や劣悪な環境で育った結果から生まれる悪循環が表現されています。ぜひご一読ください。




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