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そんなところにロックが?!?! 〜知られざる国のロックミュージシャンたち〜

 みなさんこんにちは。日々未知なる音楽の探求をやめない大学生です。
 みなさんのよく聞くロックバンドはどこの国出身でしょうか??大半の方は日本、イギリス、またはアメリカのバンドを想像するでしょう。それはなにも不自然なことではありません。私も、よく聞くバンドやミュージシャンは八割型日本、イギリス、アメリカの方々です。しかしながら、最近思うのですが、このロックやポップスという音楽は今日本ではなに不自由なく当たり前に聞けていますが、国全体の考えとして良くないものだとして規制されたり、敵性音楽だとされている国が未だにあります。また、歴史を遡れば日本でもそういう時代がありました。というわけで今回は"その国にロックなんてあったんだ?!"と意外に思うミュージシャンたちを軽く紹介できたらいいなと思ってます。では本題に入りましょう。


①ロ・セレイソティア(Ros Sereysothea, រស់ សេរីសុទ្ធា)、シン・シサモット(Sinn Sisamouth, នឹកអូនជានិច្ច)

シン・シサムット(1935〜?)


ロ・セレイソティア(1942〜?)

 いきなりへんてこりんな文字が出てきたと思った皆さん。全カンボジア国民に怒られてください。この二人は60年代〜70年代初頭に活躍したカンボジアを代表するシンガーです。セレイソティアが女性、シサモットが男性です。なぜ、カンボジアにロックがあることが意外なのか、そしてなぜこの二人が30〜40代という本来であれば人生の真ん中で活動を急に停止したのか。それにはカンボジアの暗い歴史が関わっています。
 ベトナム戦争が佳境に入った1970年、国王が外遊中にクーデターが起こり当時の政権が陥落。しかし、内戦が勃発し当時勢力拡大を図っていたポル・ポト率いるクメール・ルージュがプノンペンを陥落させ実質的な独裁政権がスタート。ポル・ポトによる政治は誰の目から見ても凄まじく、原始時代のありのままの社会の構築を目指す"原始共産主義"のもと、政権が進められていきました。その内容は、国民をいくつかある強制労働場に全員収容し、そこで働かせ、教育、娯楽、スポーツ、宗教などをほぼ全て廃止しました。そのため、ロックを含めた文化、芸術もほぼ潰え、上記の二人もカンボジアが誇るシンガーにも関わらずもれなく強制労働場行きとなり行方不明となっています。(行方不明という設定にはなっていますが、実際には強制労働場で、、、)
 この二人は国が混乱状態に陥っても創作活動をやめず歌い続けたことから、最近になって功績を称える人が増えているそうです。また、彼らは強制労働場においても軍歌などの国やポル・ポトに礼賛されるような曲を歌わされ続けたそうです。

クメール・ルージュ軍歌「繁栄の兵士」
歌い手はセレイソティアとシサムット

 悲劇的な最期を遂げてしまった彼らですが実際に曲を音楽的な視点から見ていきましょう。Apple Musicにもある彼らの創作活動をまとめた「Cambodian Rocks」というアルバムがあります。このアルバムでカンボジアで60年代に発展したロックの概要を感じることができるでしょう。

 その中でも代表曲の「I'm 16」という曲を載せておきます。この当時サイケやガレージのムーブメントが欧米で起こっておりそれに少なからず影響されているのではないかなというサウンドです。正直、劣悪な環境もあり楽器のサウンドなどに安っぽさは否めませんがそれでもどこにも似つかわしくないカンボジアオリジナルのロックが楽しめると思います。


②キノー(Kino, Кино)


キノーの集合写真

 お次は何と旧ソ連時代にソ連で活動していたロックバンド。「キノー」。みなさんもご存知の通りアメリカとソ連は長い冷戦時代を過ごしており、キノーが活動していた80年代ももちろん冷戦真っ只中であります。ロックやポップス=アメリカの音楽でありブルジョワ的で好ましくないということで国内では規制の対象となっていたらしいです。
 では、どうやって活動していたのか。結成当初は個人のアパートなどで開かれる地下ライブなどのこじんまりとしたフェスに参加していたといいます。そして、ライブエイドやWe are the worldなどのチャリティイベントに全世界が沸いていた80年代中盤にソ連でもロックフェスティバルが実現。そこに出場した彼らは強いメッセージ性とカリスマ性で国民的に人気を得ることになります。
 しかしながら、リーダーで全ての作詞作曲を行なっていたヴィクトル・ツォイが1990年に28歳で交通事故で急死。実質的な解散に追い込まれます。このヴィクトル・ツォイとキノーは現在でもロシアのロックスター、ロックの神様ということで熱狂的なファンから支持されているそうです。

ヴィクトル・ツォイ(1962〜1990)



 キノーの楽曲を見ていきましょう。サウンド的にはニューウェイブ的でテクノポップの影響を受けているものも目立ちます。結成当初はドラムがおらずドラムマシーンを使ってレコーディングをしていたとか。ロシア語なので、全く歌詞の意味はわかりませんが何か強いメッセージ性を感じる曲が多いです。ボーカルの何かに訴えかけるような強い語り口調は魅力的です。

Группа Крови(Blood Type) -Kino

③ライバッハ(Laibach)

ライバッハの集合写真。何とも危険な出立ちだ。

 お次はこれまたなんと旧ユーゴスラビア出身のバンド、ライバッハです。炭鉱町のトルボヴリェというところで結成されており現在ではスロベニアに位置しています。当時のユーゴスラビアは共産主義体制だったため、キノーと同様に政府の監視下に置かれていました。ライバッハは"新スロベニア芸術"と自身らで名付けた架空の思想国家の芸術運動の一環として音楽活動をしている設定らしく、彼らはその上ナチスに酷使したコスプレ(上の写真を見ていただければわかる)や軍歌などの全体主義やファシズムを思わせるようなモチーフを多用していました。そのため、当時のユーゴスラビアの右翼や左翼両方から攻撃を受けるハメになり、まさに命がけでバンド活動をしていたらしいです。結果的に国内での活動が禁じられ西側諸国に行くことに。

 このバンドは前衛的であったり、また軍歌のようなものだったり様々な試みを行いながら活動を続けていきましたが、彼らのキャリアの中で絶対に書かなければならないことがあります。それは2015年に行われた衝撃の北朝鮮ライブです。この模様はドキュメンタリーとして「北朝鮮をロックした日〜ライバッハ・デイ〜」として、映像に収められています。

 なぜこのバンドがよりによって招かれたのかはわかりませんし、普通に考えてこのような過激な、特にナチスを模した格好をしているバンドなんて北朝鮮で許されるわけがないと思っていました。しかしながら、映画を見てみると、ライバッハと北朝鮮側の橋渡しとなってくれたマネージャーの方の尽力で、 なんとか北朝鮮での行動を進めていけていたようでした。そして、ライブ当日になり北朝鮮側の観客は座りながら微動だにせずライブを鑑賞しているようでしたが、ライバッハの強いメッセージはそれなりに伝わっているようでした。私はこのライブ映像を見てアツいものを感じざる終えませんでした。

 この曲は「The Whistleblowers」。日本語で"内部告発者"という意味です。"僕たちは戦う、まだ見ぬ自由のために"というとても意味深な歌詞を含んだ曲はきっと北朝鮮人の変革を願う心に届いたことでしょう。他の曲やその歌詞にそれぞれ検閲が入り、ライブでできるはずの曲ができなかったり歌詞が変えられたりということが相次いだそうです。しかしながら、この曲をオリジナル通りにできたということはとても意味のあることだと思います。

④ヘベズ・ダウレ(Khebez Dawle)

ヘベズダウレの面々

最後に紹介するのは現在活動中のポストロックバンド、ヘベズ・ダウレ。2012年結成の彼らだが四人の出身は何と紛争が絶えず行われているシリア。四人とも戦争難民となり現在ではベルリンで活動しているらしいです。結成当初はドラムは別のメンバーだったらしいが奇しくも殺害されてしまい、ギタリストも兵役に取られてしまい一度は活動休止したものの、レバノンに亡命しバンド活動を再開。その後トルコなどを転々とし現在ではドイツ、特にベルリンに活動の拠点を置いています。
 彼らのファーストアルバムはシリア紛争を目の当たりにしている男の話だといい、戦争の影を色濃く残した作品が多い。また、バンドの初の公でのライブは難民キャンプでの演奏だったそうです。
 音楽面に関してたが、いわゆるオルタナティブな感性とアラブ的な要素が混ざったようなサウンドです。

 不思議なもので言語が全くわからなくともそのパワーや説得力というものはひしひしと伝わってくるものです。ヘベズダウレの音楽は彼らの深い深い闇を背負ったバックグラウンドがあるためかとても心の響く。バリバリ現役のバンドなため今後も安全な地域で音楽活動に励んでほしいと私は思います。

おわりに

 いかがでしたでしょうか?この世界にはまだまだ日本とは異なった風習だったり価値観、情勢の国があります。日本でなに不自由なく色々な世界中の音楽が聴け、また表現できる私たちは幸せなのかもしれません。それと同時にこのような制限の下で社会の不条理だったりを訴えるような音楽はとても説得力があるものです。"日本に生まれてよかった"とシャットアウトするのではなく、このような日本にいては体験できない強烈なバックグラウンドを持った音楽を聴いてみると自分の視野が広がるかもしれません。

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