節分
自宅のトイレットペーパーも尽きそうだったので最寄りのドラッグストアへ日用品を買いに行くと、入り口の外で鬼が一人で寒そうに立っていた。どこかで豆を投げられて逃げてきたのだろうか。
彼は赤鬼だった。しっかりと左右の牛の角が生えていて、毛並みの良い虎の腰巻きをしていた。彼は凍えていたが、節分の日ということもあって店内には沢山の豆が売られていたので入りづらそうだった。
私はトイレットペーパーと半額セールの恵方巻きと発泡酒を買って店を出た。まだ赤鬼は一人でそこに立っていた。なんだかかわいそうに見えたので「よかったらうちで一杯やりませんか?」と声をかけそうになったが、さすがに予告も無しに赤鬼を連れてきては妻に怒られるだろうし、子供達も怖がって豆を投げつけてしまうかもしれない。かわいそうでも相手は鬼だ。内に入れてしまえば何をされるかもわからない。
結局私は彼と目も合わさずに家に帰った。風呂に入り、発泡酒を飲んで恵方巻きを食べようとした時、せめてあの赤鬼にホッカイロを買って渡せば良かったのだと後悔した。
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