見出し画像

ゲームを作るときに考えていること ~おもにコンセプトという曖昧なものについて具体的に考えてみた~

こんにちは、さだまつひろゆきです。

このノートはBoard Game Design Advent Calendar 2020 ( http://adventar.org/calendars/5432 ) の12/4の記事として書いています。
初めて参加します、どうぞよろしくお願いいたします。

簡単に自己紹介させていただきますと、これまでに、ヘゲモニア戦記、ひゃっぴきいっしゅ入門編、人類誕生、サンタキッズと4つのボードゲームを作ってきました。2002年からデジタルゲームの企画やディレクターをしていました。2018年から本格的にボードゲームを作り初めて今にいたります。

サンタキッズというクリスマス向けのゲームをつくったので、その話をしようかと思いましたが、それはすでに書いてしまっています。なので、もう少し全体的な視点から、自分が何を考えてゲームを作ってきたのかを書いてみたいと思います。腑に落ちるところは参考にしていただいて、そうでないところはなぜ腑に落ちないのか理由を考えてみていただけると良いと思います。


コンセプト

ボードゲーム制作だけでなく、何かをするときにはコンセプトって重要だなって思います。そして、ボードゲームのコンセプトは3つの要素で成り立っていると思っています。それは、そのゲームの目的、それを実現するコアメカニクス、その目的と手段を橋渡しするテーマの3つです。その3つがそろってコンセプトだと思っています。この、目的とコアメカニクスとテーマは作るゲームによってどこから考え始めるかが変わってきたり、その重みが変わってきたりします。中でも、目的があやふやなゲームは結構あるかと思います。しかし、その目的が明確になっているとゲームは作りやすくなるんじゃないかなと思っています。

目的とは、そのボードゲームがリリースされたことによって誰がどんなふうに喜んでくれるのかということです。飲み会にピッタリのゲームなら飲み会が好きな人に喜ばれるでしょうし、逆にただ出したい!という自分を喜ばすための自己実現的なものもあるでしょう。目的という言葉は、存在意義とか、ニーズとか、要求とかそんな風に置き換えることもできます。制作されたゲームには多かれ少なかれなんらかの目的があるはずなのです。そしてその目的はゲームづくりの中心にあるもので、最初から最後まで変わらないことが望まれます。ただし、途中で変わっちゃうこともあるのが厄介ですけれども。

コアメカニクスとは、どうやってその目的を達成するのかの方向性を決める、そのゲームの中心となるメカニクスです。飲み会にピッタリなゲームという目的があったとして、じゃあコンポーネントは少ないほうがいいとか、盛り上がる感じとか、細かいルールはいらないかなとか。そういう要件を吟味した結果、シンプルなカードで作るブラフゲーにしたらいいんじゃない?みたいにある程度こんなゲームかなーっていうのが見えてくると思います。それがコアメカニクスです。最初はコアメカニクスがカッチリ決まっていなくてもある程度の方向性や、ベンチマークするゲームが決まっていても良いと思います。もちろん具体的な方が良いです。

テーマとは、世界観とかモチーフと言われるものです。そして、コアメカニクスと目的をつなぐものだと考えています。その目的を達成するために、ターゲットを引き込むために何かしらテーマがあると良いと思いますし、テーマがあればルールの理解がしやすかったりすると思います。そうやって目的とコアメカニクスをつなぐ架け橋になるのがテーマです。アブストラクトでも、木の温かみのあるものとか、プラスチックのクールなもののようなテイスト的なのも一種のテーマと言えるでしょう。

一般的には目的を先に設定したほうが作りやすいと思っています。目的が明確であればあるほど、それに対してどのようなコアメカニクスやテーマがあるかを探し出す方がブレにくく開発がスムーズに進むと感じているからです。特に商業的な考え方では目的を先に立たせることが多いかと思います。目的が設定されたら、それを解決するためにどんなテーマが合うのか、そのためにどんなコアメカニクスが良いのかを決めていきます。

コアメカニクスから作り始める場合は、このメカニクス使いたいとか、このゲームをこう変えたら面白くなるんじゃないか?みたいなことから始まります。ゲームは面白ければそれでいいという考え方もあるので、コアメカニクスがコンセプトの本質になることもありえます。この場合、途中で目的を見失って右往左往することがよくあったので注意が必要です。なので、ゲームの概略が見えてきたところで目的を設定するようにしています。思いのほか試作がうまいこと進んでいしまい、ゲームが完成しそうになってから目的を設定することもあります。このとき、最後にテーマや世界観を決めることになるのですが、そのテーマ決めはわりと難航するイメージがあります。このテーマ良さそうだけど、このギミックと合わないなーとか。ある程度の割り切りが必要になったりします。そしてテーマを決めたらそれっぽい要素足してみたくなったりしてクソゲー化して泥沼化して、一周回ってもとのゲームにもどして割り切っちゃう的な流れはゲーム制作あるあるだと思います。

もちろんテーマから先に決めることもあります。この場合テーマと目的の意味合いが近い場合が多いです。時事ネタに対して素早く対応すると多くの耳目を集められるぞとか、IP(既存キャラクターなど)を活かすために作るとか。例えば最近であればコロナをテーマにしたゲームを作ろう!とか。鬼滅の刃をテーマにしたゲームを作ろう!とかです。この場合、取り上げたテーマのターゲットが目的と一致するはずなので目的は明確になりやすいと思います。ただし、そのテーマのどの部分をどういうメカニクスで作るのかというのは頭を悩ませます。多くの場合、あまり新しいことは考えずに既存のゲームをベースに枯れた技術の水平思考するのがカロリー少なくてやりやすいと思います。語弊はあるかもしれませんが、強力なIPやテーマはかぶせるだけで新しい体験を生むので、こういう場合はゲームがそこまで新しい必要はないと思っています。むしろIPが強ければ強いほどゲームは無個性というかレガシー(古い技術という意味で)なほうがいいとさえ思っています。大枠のメカニクスが決まってしまえばあとは割とブレずに進むことができます。

このように、どこから考え始めるのかは状況次第ですが、どの場合もできるだけ早い段階で目的をはっきり設定したいと考えています。しかし、最初から全部がカッチリ決まっていることなんかなくて、作っていくうちに明確になっていくことが多いです。あんなメカニクスいいな、こういうテーマ面白そう、このシチュエーションで遊ぶなら?みたいなコンセプトの切れっ端がたくさんあって、それが1つにまとまって行けそう!ってなったら本格的にゲームづくりがスタートすると言うイメージです。単にメカニクスのテストだけを触ってみる試作もよく作りますが、常にどんな目的やテーマが合うかなと考えながら施策します。とはいえ、いろんな大人の事情から目的半分で作り始めざるを得ず四苦八苦することはよくあります。

例えば、サンタキッズは、ボードゲーマーが非ボードゲーマーを誘う口実にするゲームという目的を最初に考えました。そのためにテーマをクリスマスにして、パーティーの余興としてボードゲーマーが友達や家族を誘いやすい豪華でかわいい見た目にしようと思いました。桃鉄的なすごろくでプレゼントをピックアンドデリバリーすればぴったりだ。考えどころも用意して他のボードゲームもやりたいって思ってくれたらいいな。というようにコアメカニクスを固めました。
作っていく上で、ピックアンドデリバリーというコアメカニクスこそ変わりませんでしたが、最初に作ったものが面白くなかったので、ガラッとシステムを変えたり、サイコロが途中でなくなったりしました。イベントカードをギスギスしない方向にしつつインタラクションも保持したのも、目的があったからこそですね。これはある意味王道感のある作り方だったと思います。

ヘゲモニア戦記は、初めて作るにあたって、今一番作りたいゲーム作ろうと思いました。これはある意味目的でもありますがかなりあやふやです。そして、カタンをベースに初期配置が重いので、種族という非対称性で解決したゲームをつくるのは面白いのではないか。というコアメカニクスが考えられました。これは、既存のゲームの問題点を解決するという1つのゲームの作り方でもありますね。ボードゲーマーが遊んでこのゲームつくったやつデキるな!って思ってくれたら最高だなと思いつつ作りました。なのでファンタジーテーマがゲームっぽくていいかなと。

ゲームを作っていく過程で、目的やコアメカニクスやテーマが変わってくることもあると思います。その時は1つが変わったら他も必ず見直します。この目的と手段とテーマがずれるとやばいことになります。キッズゲーム作ってたのになんか複雑になってきちゃったとか、重ゲー作ってたけどこのメカニクス向いてないぞ?とか、なんかもっといいテーマ見つけたからテーマ変えようとか。コンセプトを見直した結果NGなところがでたら、頑張って整合性が取れるように調整します。しかし、途中でコンセプトの一部を変えざるを得なくなると色々と不具合が出てきて大変な思いをします。とはいえ、引っ込みつかなくなって「このままでいい!」と自分の心に嘘をつくのは良くないのでなんとか辻褄が合うように考えます。目的がやや曖昧であれば、面白ければそれでいんだ!という技も使えますw。

環境

コンセプトも重要ですが、その前に自分の環境がとても大事です。それは、そのゲームをどうやって製造するのかということです。自分で作るとか、誰かに頼むとか。どこで印刷するとか、お金は自腹なのかスポンサーがいるのかとか。そういったゲームを作る上での障害を取り除かないとゲームは作れません。この環境という前提条件があって、その上にコンセプトが成り立っていると言うのも過言ではありません。同人だと仕事とか家庭とか製造費とかモチベとかでゲームが作れなかったりすると思います。関わる方々との人間関係もあります。そういった問題を解決する方法も必要とします。しかし、それを考えすぎても仕方がないので、パッションのおもむくまま作り始めてそのまま作り切るというスタイルもあります。後で地獄をみることも多いですが、その地獄も楽しんでしまえば問題ありませんよね。

テーマとメカニクスをあわせる

コンセプトである目的とメカニクスがテーマと合致しているのは当然として、細かいメカニクスの部分でもちゃんと噛み合っててほしいと思います。そして、テーマとメカニクスはゲームを作っていく間に相互に作用していくものだとも思います。メカニクスの視点からテーマの新しい側面が見えてきたり、その逆もしかりです。

サンタキッズでは、当初配ったプレゼントを町の近くにおいてたのですが、雑然としていたのでどうにかしたいと思っていたところ、大きなツリーを作ってそこに置くことにしたのはメカニクスの問題をテーマで解決したいい例だと思います。
ヘゲモニア戦記では、スライムは合体するし、エイリアンは母艦が動くというのもメカニクスとテーマがしっかりあっていて良いところだと思っています。

そうやってテーマとメカニクスが一致すると、ルールの理解が進みやすくなりますよね。目的がなんだかよくわからなかったり、なんでこんな設定なんだ?って疑問が残るとなかなかテンションが上ってこないように思っていますので、そこに違和感がでないように気を使っています。目的とルールの橋渡しというのはそういう意味でもあります。

余談ですが、そういったテーマとメカニクスの親和性に対してバランスを取るのは、特に和製ボードゲームに強く見られる価値観のようにも思います。というのは、特に昔のドイツゲームはルールとフレイバーが全くあってなかったりテンションの上がらないテーマが多いですが、ルールはめっちゃシンプルで面白いのでメカニクス主義に思えますし、アメリカゲームはテーマをどれだけゲームで表現するかというごっこ遊びに命をかけるテーマ主義に思えます。そういった国民性も面白いですね。

できるだけシンプルに、でもゲームの面白さを優先

ボードゲームのルールはできるだけ少ないほうがいいと思っています。普遍的な名作はルールがシンプルですよね。なのでできるだけシンプルにしたいと思っています。

ただし、シンプルなままだとどうしてもルールの穴が出てきたりバランスを欠いたりしてしまいます。そういうときはきっちり塞ぎます。なんとかシンプルなまま面白さを担保できないかと思うのですが、無理な場合はルールを追加して塞ぎます。

人類誕生は自分の前に1枚ふせカードを起き、それを指差すことで交換か採集を選びます。これって一見すると伏せカードはなくて人を指差せばいいと思うじゃないですか。でも、それをやると次にやる荒廃のステップを忘れてしまうんです。ちょっと見てくれは悪いですがそのほうがルールの間違いが減るのでそうしました。サンタキッズはイベントカードにある時間が進むカードを引くことでゲームが終わりに向かいます。全部シャッフルしたほうがいいですが、そこをコントロールするためにABCの3つに分けてそれぞれシャッフルするようにしました。ルールが少し増えてもゲームの体験が良くなることの方が重要だと考えています。

ゲームを作っていくと、そのメカニクスが持って生まれた宿命みたいなものを感じることがあります。どうしてもシンプルに収まらない。ルールを追加しなければならない。シンプルに収まる方法を見つけられないだけなのかもしれないんだけれどもなかなかきれいに行かない。シンプルにきれいに纏めるのって大変だし、その原石を見つけるのも大変なんだよなーといつも思ってしまいます。

ちなみに、ひゃっぴきいっしゅはもとの百人一首という古典あってこそですが、とてもシンプルにまとめられたいいゲームだと思いますので、ぜひ皆さんに遊んでほしいです。

リスクとリターン

私は、しっかりとゲーム性のある物を作りたいと思っています。ゲーム性とはリスクとリターンのことです。もちろんそんなのあんまり関係ないバカゲーもプレイするのは好きです。

実は、人類誕生も単なるバカゲーに見えるかもしれませんが、リスクとリターンがしっかりあるゲーム性の高いゲームなのです。相手が何を持っているか、手札を捨てるときに何を捨てればいいのかなど、みんなが発するコトバやモノの種類、失われた場を見てしっかり推理することが大事です。ギリギリクリアできるかできないかのラインに調整してよりゲーム性を高めています。そのあたりも感じていただけると嬉しいです。

ゲームシステムというものや、駆け引きにとても興味があるので、それをしっかり表現していきたいと思っています。

運ゲーかそうでないかっていう話もよく聞きますよね。リスクとリターンがほとんどなくって、自分の決定がゲームの勝敗に全く影響を及ぼさないのではないかと感じてしまうゲームが運ゲーとよばれます。しかし、私は全体としては運ゲーだけど、手番でやることにリスクとリターンがしっかり発生していることがボードゲームとして良いとされているように思います。サンタキッズはかなり運の要素が高いゲームだとは思いますが、その手番ではルートを考えたり、くつしたチップをめくってチャレンジするか、一度戻るかというような選択肢が常にあるようにしました。そして、運ゲー過ぎて何やっても同じじゃーんってならないギリギリのラインを狙って作ったつもりです。人によってはその一線を超えてしまって単なる運ゲーだと思う方もいらっしゃるでしょうけれど。

新しいゲーム

基本的には、なにか新しい体験ができるゲームが作りたいと思っています。できれば、新しいシステムを発見したいと思っています。今まで僕が作ってきたゲームはどれも新しい体験ができるゲームだと思っていますが、システムが新しいかと言われるとそんなことはないかなーと思っています。

やはりドミニオンのデッキ構築システムとか、プエルトリコのバリアブルフェイズオーダーみたいな、他のゲームのエンジンとなり得る新しいメカニクスを作るのには憧れます。そんなのほぼ無理ゲーなんですが、それ作れたら勝ちですよね。でも、いつか作ってやりますよ。

テストプレイ

テストプレイはとても大事だなーといつも思います。とくに初めてプレイする人は貴重だなと思います。自分の周りでテストプレイに付き合ってくれる人の数は限られていますので、どのタイミングでプレイしてもらうべきか悩ましい。最近はコロナの影響もあってオンラインのテストを中心に進めたりしますが、リアルでのプレイと比較すると1.5倍ぐらい時間がかかりますし、プレイ感も若干変わってきます。このテストプレイの量がゲームの質を高めると思うので、なんとかして確保したいところです。テストプレイの機会があればぜひよろしくお願いいたします。僕も手伝います。

ルールライティング

誰にでもわかりやすくルールを書くことってこんなに難しいのか!と毎回思います。ある程度気をつけるべき点がわかってきましたので、ざっくり列挙しておきますね。

・最初に世界観と一緒に、このゲームで自分は何なのか、目指すべき目標は何なのか伝える。そうすると、その後のルールが入ってきやすくなる。世界観と一緒にというのがポイントです。(よく読み飛ばされるので悲しいですけれどもw)
・コンポーネント一覧でオモテとウラがあるものは、どちらもしっかり絵で説明しておく。そしてそれを前提にルールでオモテウラの表現を書く。
・オモテとウラはカタカナで書く。漢字の表裏だと似ていて間違えやすい。
・初めてでてくる用語はそのときにきちんと説明する。
・初めて出てくるコンポーネントもそのときにきちんと説明する。
・用語はしっかり統一し、表記ゆれに気をつける。
・一般的に他のゲームと違った処理やいくつかのパターンが考えられるところは間違えやすいので、特に目立つようにする。
・できれば、その行動はなんのために必要なのかも書き添える。あとのルールを読むとわかることをざっくり説明しておくと、ルールが頭に入りやすい。

最近思うこととして、セットアップやコンポーネントの説明のときに、これはこういうときに使うものですよ。というのを一緒に書き添えるといいんじゃないかなーとか思っています。まだまだルールライティングは工夫の余地があると思うのでいろいろチャレンジしていきたいと思っています。

最後に

長々と書いてきましたが、改めてこうしてこれまでの2年間を振り返るとちょっと肩肘張って作ってきた感じがします。個人的には、もっとラフに、もっと気楽に作っていきたいなーって思っています。ボードゲーム制作のコンセプトも大事ですが、なぜボードゲームを作るのかという自分自身のコンセプトはもっと大事ですよね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?