ヘゲモニア戦記 デザイナーズノート
ヘゲモニア戦記は、45分ぐらいで、2人~5人まで遊べるボードゲームです。
そんなヘゲモニア戦記を僕がどんな気持ちで作ったのかを書き残しておきます。
コンセプトを考える
僕は中量級のボードゲームが好きです。
もちろん120分かかる重めなゲームもライトなコミュニケーションゲームも嫌いじゃないですけど、60分ぐらいの中量級のゲームが好きです。
ボードゲームの面白いところは、プレイしている人の性格がにじみ出てそれを体感できるところだと思っています。
でも、60分ぐらいの中量級のそういうボードゲームって意外と少ない。
だから、そんなゲームを作っていきたいという気持ちがあります。
あれこれ考えたところ、特に交渉を伴うゲームが少ない気がします。
カタンという交渉のあるゲームは本当に好きでよくプレイしましたが、最初のコマの配置が難しいし、ちょっと重いと感じていました。
だから、テラミスティカというゲームみたいにプレイヤーごとに役割を持たせれば、最初の配置が勝手に決まるから悩まなくていいと思ったのです。
世界観はファンタジーがよさそうです。ドラゴンとかの種族を使えば役割を与えるのに苦労が少なそうです。みんな好きそうですし。
そういうところから、今回作るゲームのコンセプトは
・プレイ時間が30分から60分なこと
・適度な交渉があること
・全体的に軽めなこと
・プレイヤーごとに種族(役割)を持たせること
・ファンタジーな世界観
この5つ。
中量級のゲームですし、ボードゲームの愛好家から「ちゃんとゲームになってるしバランスもまあまあ良いし面白いね」って言われるゲームにしようと思いました。
そうして2018年秋のゲムマの頃に開発はスタートしました。
ちなみにこのゲームのコードネームは「テラポピュタン」でした。
ゲームシステムを考える
最初の構想として、家とかじゃなくてキャラを使いたいな。そのキャラで資源を取ると良さそうかなと考えていました。
そんな感じでカタンと対比させながら大枠を考えながら、相手と戦ってコマを取り除いたり、資源を略奪したり、家から資源が出たりとテストプレイを繰り返していきました。
そうして、コマを土地間で移動させ、種族コマの数のが過半数になるとその土地の資源をゲットできるという感じに大枠が決まっていきました。
そのころ、盤上にコマがたくさん増え、土地に沢山のコマが居座り、移動も不自由で場がすぐに膠着してなかなか資源がとりづらく思考時間も長くなっていました。
そこで、「他のプレイヤーと組んで過半数にできる」とか「白い中立の民(ファントムとよんでいた)を入れて手番プレイヤーとして数える」とか
いくつか試し、中でもベターなファントムを採用していましたが、膠着は崩せるが難解すぎると感じていました。
ずっと思い悩んでいましたが、ふと、相手のコマも移動できてはどうかと思思いつきました。厳密には何回か頭をよぎっていたのですが、ゲームが壊れそうな気がして採用しませんでした。
しかし、自分の民がいるところから『追い出す』という制限をつけることで行けそうな気がしたのです。
プレイしてみると良さそうな感触でした。
ファントムのルールは、割と面白かったのでしばらく残っていましたが、併用する意味が薄いので途中でなくなりました。
実はこのファントム、新版で3人用ルールとして復活します。このときとはちょっとルールが変わっていますけどね。
初期は拠点が1勢力もっていましたが、最初から配置されている動かない1勢力が場を膠着させすぎていたので勢力を持たなくしました。
そうすると、拠点の存在意義がほぼ勝利点のみになってしまうので何かないかと考えましたが、結局蛇足感があってあんまり他の存在意義を付けませんでした。
今のルールに採用されている、「自分の拠点がなく、自分の民がいないところにしか建てられない」というルールは、最後の最後で勝者がもつれるのが面白いと思って入れています。
資源を獲得する時の過半数もややわかりにくい点ではありますが、他のゲームが単なる最大数だったり、最大数のバッティング(いわゆるハゲタカルール)が多く、最終的には過半数で獲得というルールにしました。
一度腑に落ちると難しくはないし、意外と過半数のマジョリティゲームは少ないからいい点だと思っています。
資源のコンポーネントをどうするかについて、結構複雑な経緯がありました。
最初は色のついたキューブでした。
それをカタンみたいにサイコロを振って出た目の場所に配置していましたが、「サイコロ振るより袋からひいたほうがいいのでは?」との助言があり、出目の偏りが減るし、1つの袋に入れればよいのでとりまわしもよく、袋から出す方式にしてみました。これは良かったのですが、手元の資源を隠すか隠さないかという別の問題がずっと残ったままでした。
必要な資源の数を絞り込んだこともあって、相手がどのくらいの資源を持ってるかわからないと突然勝たれてしまって納得感が薄い。かといって、わかってしまうと次の手番で上がるプレイヤーがまるわかりで最後の盛り上がりに欠けるのです。
なので、チップにして裏を統一にして、さらにそのチップのスタンドを作ることで解決しようとしました。これなら所持枚数はわかるが中身はわからないのでちょうどよいと思ったのです。
カードにすることも考えていましたが袋から出すのが楽しいし、尽きた時にリシャッフルで資源の色が偏ったりと取り回しがわるそうでやめていました。
でも、いざ作る段階でスタンドをどう作るかが問題になりました。
種族ボードにスリットを入れてそこに挟み込むという案でまとまりかけましたが、一度カードで試してみたほうが良いだろうと重い腰を上げて作ってみたら思ったよりもカードの取り回しがよかったのです。
頭で考えるより、試したほうが早い。しかし、何でもかんでも考えなしに試すとわけがわからなくなるので難しいところです。
結局資源はカードになりました。
プレイヤーごとに種族があるのは、そこにリプレイバリューをもたせつつ、初プレイの人が初期配置で悩まなくて良いようにするためです。
それを実現するためにも結構紆余曲折ありました。
まず。初期配置で悩まないためには種族ごとに最初にコマを置く土地が決まっていればよいと考えました。
しかし、拡張を考えたとき、種族が多くなるとその分土地を用意しないといけません。
さらに、土地から資源が出るために、土地の数だけ資源の種類が必要だし、
他の種族によって資源の種類が変わるとどうにも収集がつかない…。
資源と拡張と土地が複雑に絡み合って頭が痛い問題でした。
結局、土地を固定し、それに属する種族も固定しました。
種族を拡張する場合は、既存の種族と入れ替える形にすることにしました。
そうすれば、土地の種類が増えず、資源の種類も固定できます。
しかし、3人プレイのときのエイリアンだけは初期配置が固定ではなくなってしまっています。これは少し心残りですがエレガントに解決できませんでした。
実は土地はこれまでそれぞれ個別に大き目のタイルで遊んでいましたが、土地を固定することにしたので1枚のボードにすることにしました。ボードゲームっぽさが上がってよかったです。
バランス調整をする
各種族の特性とバランスは最後まで調整したがなかなか難しい問題でした。
最も頭を悩ませたのはスライムです。
たくさんの民を持ちますが、その代わりに移動力が低いというコンセプト。
しかし、初期配置の場所にたまって行き詰ってしてしまうし、場のコマの数か多くなるとどう移動すれば最適なのかわかりにくくて長考しやすくなる。という大きな欠点がありました。
様々なバランスて調整したり、特殊能力を変えてみたりしていたがどうにもしっくりきませんでした。
あるときのテストプレイで合体すればいいんじゃ?キングなんとかみたいに。って意見がでました。それは面白そう!と採用したら、1つにまとまることで他の種族も移動させやすくなってすっきりしました。何よりユニークで気に入りました。
他にも、エイリアンの拠点は動かないため、エルフの機動力が死んでしまって相性が悪すぎる問題に入稿後に気づいて、あとでエイリアンの拠点を追い出せるように修正シールを作りましたし、新版ではドラゴンをちょっと強化するなどの微調整もありました。
これらは調整不足によるものです。テストプレイをもっとしたかったのですが、今回は今後のことを考えてどうしても春のゲムマに出したかったのでちょっと調整がおろそかになってしまいました。
全体的なバランスについて、プレイ時間を45分に収めたかったこともあり、それぞれの数値を絞り込んだ結果ピーキーなゲームになってしまっているのは否めません。
しかし、プレイ時間を延ばして平均化させたり、扱う数字を大きくすればたちまち重いゲームになってしまいます。できるかぎりライトにプレイして欲しかったので、各数値をギリギリまで絞り込みました。
結果、いろんなギミックを詰め込んだ割には、わかりやすくライトなプレイ感で楽しめるものになったと思います。
しかし、初版でのプレイ人数による調整には反省点があります。
初版では4人プレイの調整はよい感じがしましたが、他のプレイ人数についてはプレイ時間を目安に調整をしました。結果、人数によってプレイ感が大きく異なってしまいました。
今回の新版では、3人、5人プレイ感を4人プレイに近づけるように調整しました。特に、3人プレイにはファントムというコマを使って盤面が薄くなる問題を解決しているので、より面白くなっていると思います。
テストプレイの回数はボドゲのクオリティに直結します。
初版はなかなかテストプレイができずに苦しみましたし、これによってお客さんに迷惑をかけることになったので反省しました。
今はテストプレイを頻繁にできる体制を作ったので今後は納得のいく調整をしてからリリースしますので、ご期待ください。
最後に、いくつかの問題をピンポイントで対応していきました。
たとえば、逆転の目がないことを横取りカードで緩和したり、移動しても資源が取れないことが続くとつまらないので、移動しなければ資源を獲得できる。といった感じです。
横取りカードがかたよるとそれはそれで運要素が強まるのですが、全体的な運要素が強めではあるしメリットの方が強いと思っていれました。
これでカタンっぽさが強まってしまいましたが、プレイ感としての目標にライトなカタンがありましたし、それはそれでよしとしました。
ゲームを作るとき、「アイデアはいくつかの問題をいっぺんに解決するもの」という宮本茂さんの言葉をいつも思い浮かべます。
このルールを入れることでいくつの問題を解決できるだろうかと。
最後の2つのルールを入れるかどうかは結構悩みました。特に移動しなければ資源が取れるという仕様は微妙なラインな気がします、しかし、取り回しがそこまで悪くないこと、大きくプレイ感が向上することもあって、プレイの費用対効果が高いと思っていれました。
ほかにも、コンポーネントのデザイン作成と入稿データの作成、マニュアル作成は初めての作業でしたし、全部ひとりでやるのはあまりにもつらかったです。でも、これでボードゲーム制作の全体感が理解できましたし、立案から3ヶ月で入稿できることも分かったのでよかったです。
発売する
初版を発売してからさまざまな意見をいただきますが、まず値段が高いということをよく耳にします。
これでも、原価率はかなり高くて委託販売したら儲けはなし。
むしろ人件費分全部赤字という状態でした。
でも、SNSで面白かったという感想があったり、すぐ売り切れたりと、手ごたえがあったのですぐに新版を作ろうとなりました。
その後にもゲームマーケット大賞2019の1次を通過したり、ほらボド!というポッドキャストでよい評価を得たりしたので、予定していた新作を延期して、より新版へ力を入れることにしました。
新版について
新しいヘゲモニア戦記は、自分の専門ではないコンポーネントやルールブックのグラフィックデザインをカミバヤシ氏にお願いし、さらにキャラデザインにヒラタリョウ氏にお願いしたことで、中身も見た目も非常に良いゲームになったと思います。
そして、まとまった数を作ったのでちょっと安く作ることができました。
ですが、初版を買ってくれたみなさんには悪いので新しく調整されたルールでプレイできるように新コンポーネントであるファントムのプレゼントを準備することにしました。現在準備中ですので、でき次第SNSで告知させていただきます。
これがヘゲモニア戦記の新版が作られた経緯です。
みなさんに楽しんでもらえたなら幸いです。
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