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Day 3: オーデュボンの祈り / 7-Day Book Cover Challenge

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3冊目はオーデュボンの祈り。伊坂幸太郎のデビュー作。ばらばらだった物語が、終盤が近づくにつれ急激に収束していく。ミステリーは他にも読むけど、伊坂幸太郎の作品は何度も読み返したくなる魅力がある。

ミステリーは謎が明らかになっていく過程が面白い。そういうことだったのか、とか、ここでつながるのか、とか。ただ伊坂幸太郎の文章は、その一節だけでも読ませる力があるし、引き込まれる。だから読み返したくなる。この作品にでてくる端々の文章がとても好き。

物語としては、カカシの優午が殺害されて、その犯人を追っていく。

狂気と受容。狂うことと受け入れることは似ている。

最初の方に出てくる一文で、印象的だった。しゃべるカカシのいる島で、それに慣れつつあるところだった。もう少しあとに、こんな一節もある。

信じられないことばかりだったが、しゃべるカカシには、すでに違和感がなかった。人間は慣れる動物である。そうして、飽きる動物である。だらだらと生きる。若者は時間を持て余し「何か面白いことないかな」と愚痴る。諸悪の根源とは、そのあたりにあるのではないだろうか。

これも比較的最初のほうに出てくる一文。

 「神様のレシピだ」日比野が表情を変えずに言った。「未来は神様のレシピで決まる」
 錯覚ではあったが、カカシはうなずいたかのように見えた。「神様のレシピにはとても多くの材料が並んでいて、贅沢です」
 僕はそれをとてもいい響きの言葉だ、と思った。

僕もこれをとてもいい響きの言葉だと思う。ただ、出てくるのは楽しくて素敵な言葉だけではない。

 さらにつづける。「楽しくないとか、悲しいことがあったから、なんて言って、やり直せねえんだ。だろ。みんな、一回きりの人生だ。わかるか?」
 峯は静かに目を閉じた。「だから、何があっても、それでも生きていくしかねえんだ」
 家族が殺されても、死にたいほど悲しくても、奇形で生まれてこようと、それでも、それでも生きていくしかないんだと彼女は言った。なぜならそれが一度しかねえ人生だからだ、と。

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伊坂幸太郎の作品は、複数の作品がちょっとずつつながっていたりして、これもまた面白い。連作というわけではなく、ある作品の主人公が、他の作品にちょこっと出て、なんかいいことを言っていたりする。

ミステリーなので作中でよく人が死んでいくけど、登場人物たちは弱さもありつつタフな人が多いので惹かれる。最近ではアイネ・クライネ・ナハトムジークという作品がコミカライズされ、いくえみ綾が描いている。伊坂幸太郎もいくえみ綾も大好きなので、とても楽しく読めた。

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