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「放課後、部活にて」(番外編5:④)

「そっかあ、そんなことがあったのね。辛かったわね、可哀想にね」
3つ目の部活(掛け持ちの演劇部)の帰り、O先輩はそう言いました。

 彼女もブラスバンド部で、とても私のことを気にかけてくれていました。家も近所だったこともあり、一緒に帰る時には分れ道で自転車を止めて、しばらくお喋りするのが日課になっていました。

 彼女がほんとの姉だったら良いのに、いつも私はそんなことを思っていました。彼女は私のカミングアウトも真剣に受け止めてくれて、相談に乗ってくれたりしていたのです。彼女は私のことを「かわいい」と言ってくれました。

「○○ちゃん(私)、気持ちは女の子なのにね、ほんとに可哀想ね」
気がつくと、私より少し背の高い彼女は、私の髪の毛を優しくなでてくれていました。

 私はほんの少しだけ癒された気がしました。

「うん」
私はそう言うのがやっとでした。

「私が、、、みんなに言ってあげようか?○○ちゃんの気持ちは女の子なんだって。うちの部には○○ちゃんと似たような人が、他にもいるんだし、割と大丈夫かもよ?」
「恥ずかしいから、、、いい」
私は彼女を見上げて言いました。

  確かにブラスバンド部には、完全にオネエ言葉でしゃべる先輩がいたのですが、その人は後輩にもバカにされていました。私はその様子を見ていて、とてもじゃないですが、自分がカミングアウトするなんて怖くてたまらなかったのです。

 彼女はそのまましばらく、優しく私の髪をなで続けてくれていました。私は自分が男であることや、また涙が出ないことが、ただ悔しくてたまりませんでした。

 その後まもなく、あの合宿後、私はブラスバンドもコーラスも退部しました。

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