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続:校閲は小説家の仕事です 『鴨川ランナー』のおかしな地理について

昨日、京都文学賞を受賞した『鴨川ランナー』に対してコメントを書きました。その内容とは別に、気になったことがあります。小説に出てくる京都の地理に納得がいかないところが2つありました。

①本当に主人公が眺めていたのが四条大橋だったのか?

主人公が南丹市八木町から京都市内まで遊びに行くシーンで、地下鉄を上がって四条大橋を眺めるというくだりがあります。これがおかしいんです。結論から言うと、これは四条大橋ではなくて、御池大橋か三条大橋ですね。

小説では八木駅からJR嵯峨野線で二条駅まで行き、地下鉄東西線に乗り換えています。そこから鴨川に近い場所に行くとすれば、京都市役所前駅か三条京阪駅で降りることになります。この二駅であれば、地下鉄から上がったところに鴨川に架かる橋があります。でも、これらは前述の通り、四条大橋ではありません。

烏丸御池で烏丸線に乗り換えて四条駅で降りて四条大橋にたどり着いたと考えることもできますが、それだと1キロメートルほどの距離を歩く必要があります。その間、四条通を歩き、四条河原町の交差点を通過するわけですから、そこの情景が書かれていないのは変です。

②河原町通の大型書店

物語の終盤、主人公が河原町通の大型書店で谷崎潤一郎の小説を買う場面があります。これは明らかにダウトですね。これは四条通のジュンク堂(最近閉店しました)と間違われている気がします。

確かに河原町通には丸善京都本店があります。そしてここは京都市の中心部では最大の書店です。なのですが、作中に出てくる店はここではありません。なぜなら、丸善には小説に出てくる「一階の雑誌コーナー」がないからです。丸善はBALというファッションビルの地下に入っているんですよね。

それに、小説の時系列を考えてもおかしいんです(注1)。それからしばらくして、主人公は大学に行き、大学院にも入るわけですから、相当昔なわけです。そのころはおそらくはBALは建て替えオープン前であったのではないでしょうか? 丸善がBALに入ったのは建て替え後なんですよね。時系列的に考えても、作中に出てくる書店は丸善ではないんです。

でも、丸善以外に河原町通には本屋はないんですよね。私は大学が京都ですので(注2)あのへんは若いころからずっと歩いていますが、河原町通に大型書店があったなんて記憶はないですね。

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こうしたおかしな地理の問題は、版元の校閲がきちんと調べて作者に問い合わせないといけません。それなのに、何も修正しないなんておかしいです。ましてや『鴨川ランナー』は京都文学賞という地方文学賞、それも京都を題材とすることが条件となっている文学賞の受賞作ですよ。そんな小説で地理がおかしいなんて、大問題じゃないですか。

以前に私はパリュスあや子さんのナビ派の展覧会については何点かおかしな点を指摘しました。でも、まだこれはフィクションという言い訳が可能です。作家の意識の低さが疑われますけどね。

『鴨川ランナー』の場合は実際の京都が舞台になっていますからね。そこはファンタジーであってはいけませんよ。ファンタジーなら出町ふたばの豆餅なんか出すのはおかしいですし。

講談社さん、またやらかしちゃったわけですよ。いい加減、会社として校閲の体制を見直さないといけないんじゃないですかね。


注1:『鴨川ランナー』、半生記のくせに時系列がまったく分からないんです。これはとんでもない欠陥ですよ。

注2:ロザンの宇治原さんに「まあまあやね」といわれる大学です。関西人にしか分からんネタですが。



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