テレビっ子のイビツな音楽遍歴


プリンスが逝ってしまったというニュースが、未だに実感を伴っていない。2015年のグラミー賞でアルバム・オブ・ジ・イヤーのプレゼンターとして放ったスピーチの素晴らしさに感服したばかりだし、2014年の"ART OFFICIAL AGE"が最近のお気に入りで、2枚組の"HITnRUN"もウィッシュリストに入れていた。

と書きつつ、私自身は決して熱心なファンではない。私が洋楽を聴きはじめた中学生の頃、彼は"The Artist Formally Known as Prince"を名乗っていて、FMではカバー曲の"La-La (means i love you)"がスマッシュヒットになっていたくらいだった。"Purple Rain"、"Let's Go Crazy"、"Batdance"などはもちろん知っていたし、好きなタイプの曲だったけど、いかんせんアーティストとしてのキャラが私には強すぎた。そう、同い年のマイケル・ジャクソンも。でもその"誤解"には訳がある。

私がプリンスやマイケル・ジャクソンを知ったのは、今となってはいつかわからない。物心ついた時、既に彼らはスーパースターだった。我が家にはレコードプレーヤー(はかつてあったけど私たち双子姉妹が2歳の時に分解して破壊)もCDラジカセもなく、音楽を聴く手段はカーステレオとテレビしかなかった。必然的に当時の流行歌、もしくは懐メロしか聴けなかったのである。「ザ・ベストテン」「ミュージックステーション」…「夜のヒットスタジオ」は残念ながら夜22時からの放送だったので、「22時までに寝る」と約束していた私たちは滅多に観られなかった。あとはもっぱらバラエティ番組だ。「パオパオチャンネル」「はなきんデータランド」「なるほどザワールド」「クイズダービー」…そんなラインナップの中にあったのが「とんねるずのみなさんのおかげです」だ。

おそらくプリンスやマイケル・ジャクソン、あるいはジャネット・ジャクソンやMC・ハマーを認識したのは「おかげです」によるところが大きい。とんねるずのふたりがMVを「完コピ」して本家本元と同時並行でOAする企画で初めて「ミュージックビデオ」なるものの存在を知った気がする。そしてデフォルメされたプリンスやマイケルを観て無邪気に笑っていた。チンパンジーのバブルスとか。当時ファンがどんな心持ちで彼らのモノマネを観ていたのかはわからないが、私にとっては「外国のスターのかっこいいダンスを真似できるとんねるずってすごい!」くらいの感じだった。けれども無意識下の影響はものすごかったらしい。その後、「ソウル・トレイン」をもじった「ソウルとんねるず」なるダンス企画でどっぷりと70sソウル・ファンクを浴びることとなり、私の好きな音楽のジャンルはほぼ方向付けられることとなった。ちなみに私のモストフェイバリットアーティストはDREAMS COME TRUEなのだが、彼らさえデビュー前にとんねるずのバックバンドを務めていたと知ったときには「どこまでも逃れられないのか…」と思い知った。

幼少期に植えつけられたキャラクターイメージがちらついたまま、洋楽を聴き始めたときには当時流行りのアシッドジャズか、Mary J. Blige、brandy、TLCなどといった女性シンガー、あるいはEW&F、アレサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイなどソウル・ファンク系をあさるようになり、プリンスとマイケル・ジャクソンはぽっかり空いてしまったのである。ジャネット・ジャクソンは"Got 'Till It's Gone"が気に入って"The Velvet Rope"を手に入れたのだけど。ポップスター過ぎて、「いつか聴こう」と後回しにしてしまっていた。ちなみにマイケル・ジャクソン関連で初めて買ったのは1999年のクインシー・ジョーンズの企画盤"From Q With Love"で、その後は2008年の記念盤"Thriller25"という。なんというにわか。

私にとってのプリンスとの"邂逅"は、2001年リリースAlicia Keysのデビュー作"Songs in A minor"だ。3曲目の"How Come U Don't Call Me Anymore?" はプリンスのカバー曲だと知った。そしてほどなく、「元プリンス」がプリンスの名を取り戻して、新作をリリースした。"The Rainbow Children"だ。従来のファンにとっては少し地味なアルバムだったのかもしれない。でも1曲目の表題曲からラストのシークレットトラックに至るまで、完璧にまで計算されたアルバムとしての世界観は、私の心を捕らえた。

その後、変則的なリリースが続いて、アルバムを買ったり買わなかったりだったけれど、あのクラスのスターにしては異例なほど多作な彼の動向はいつも興味深かったし、「次は何をしてくれるのか」という期待感を持っていた。

"Like books and black lives, albums still matter.

デジタル配信が主流となり、1曲ずつ好きな曲を買うことが容易になっても、私は相変わらず、なにか1曲を気に入ったときには、必ずアルバム単位で買うようにしている。

"Albums. Remember those?"

読んでくださってありがとうございます。何か心に留まれば幸いです。