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入社してから人事労務ソフトウェアのUIデザインでぐるぐる考えていたこと

これは SmartHR Advent Calender 2020 18日目のエントリです。

はじめまして。2020年7月にプロダクトデザイナーとして入社したnaoです。
以前「プロダクトデザイングループだったの?」と言われたくらいには存在感はありません。

これはこの世で生きるデザイナーの端くれの嫉妬と憎悪にまみれた汚い心から紡ぎ出されたあくまで個人的なエッセイですので単なる読み物としてお読みください。別名入社エントリーとも言えます。

入社以来、人事労務という分野でUIの設計をする時に、どう設計をするべきなのかをぐるぐる考えてたのでそれを言葉にしてみました。

導入

OOUIという概念があります。「オブジェクトオリエンテッドユーザーインターフェイス」を略した言葉ですが何とも声に出したくなる言葉ですね、オーウイ。

昨今のGUIデザイン業界の一部では色々な方のご尽力のお陰で少し前にOOUIブームが来ました。私自身凄くタメになりましたし、周りの方と同じ言葉を使って会話出来ることがデザイナーとして嬉しいです。

そんなOOUIですがプロダクトに取り入れることで大きなメリットがあることは上野学さんの著書でもご紹介されているので興味のある方は是非手にとってみてください。

じゃあどういうことなのかと言いますとこの世には「タスク指向UI」と「オブジェクト指向UI」なるものがあり、そのオブジェクト指向UIの事をOOUIと呼んでいるわけです。具体的な概要を図解したのがこちらの画像です。

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参照: オブジェクトベースなUIデザイン
(画像をお借りします、感謝します🙇‍♂️)

身近な物で言うとATMのUIはタスク指向ですね。やることから始まっています。簡単です。

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※画像は実際のATMの画面ではありません。


一方オブジェクト指向UIはユーザーが実際に操作するものから話がはじまります。ではオブジェクト指向UIの特徴は何なのでしょうか?

前述の書籍の著者の上野学さんはこちらの記事でオブジェクト指向UIの特徴について建築家のクリストファーアレグザンダーの話を用いて以下のように述べています。


ここで上野氏は、『パタン・ランゲージ』で紹介されている「柱のある場所」の話を持ち出した。建物の作り手は屋根を支えるために柱を作るが、建物の中にいる人は憩いの場所、あるいは空間の間仕切りなど様々な方法で柱を利用する。作り手の意図を超えたところに意味が生まれる構造は、オブジェクト指向と近しいところがあると指摘した。

引用元: 概念に触れることから、創造性は生まれる——OOUIの目当て #WIAD2019

私なりに要約すると制作物がデザイナーの意図の範疇を超えて使用する人によって新しい価値を見いだされるということでしょうか。同記事で上野さんはこれを創造性と呼んでいます。

その他にも色んなメリットがあるオブジェクト指向UIですし、私は考え方として凄く好きです。

でも私は悩んだんです。私はタスク指向UIにも絶対良いところがあると思うんです。

有効性はいかに?!

GUIの歴史の中では、元々コマンド入力が主の操作体系だったCLI(Command Line Interface)しか無かった世界において、Macintoshの誕生により視覚的に対象を操作できるGUIが爆発的に普及したという過去があります。そのGUIこそが、操作する対象を起点にして考えるオブジェクト指向UIな訳です。

最近のデジタルプロダクトデザイン界隈ではオブジェクト指向UIをを用いてデザインすることが「銀の弾丸」などとも言われるようになりました。もちろんただの比喩表現ではありますがそうやって呼ばれる程に効力を発揮するものだと感じています。

オブジェクト指向UIが銀の弾丸として受け入れられてる背景には、これまでの業務アプリケーション等での要件定義の段階から「ユーザーのやること」と「機能」ばかりに目を向けて、ソフトウェアの使いにくさが追求してこなかった歴史へのカウンターパートとして捉えられていることがあるのではないでしょうか。

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出典: https://freesoft-100.com/review/imgburn.php

昔良く使っていたImgBurn。紛うことなきタスク指向なUI。便利だったね。

ではオブジェクト指向UIオブジェクトを採用することでユーザーは幸せになるのでしょうか?ユーザーの多様な思考に合わせて変化出来る柔軟なソフトウェアは生まれるかもしれませんが本当にそれだけで良いのでしょうか?

人事労務は忙しい?

人事労務業務は凄く大変な業務だと思います。

業務範囲は多岐にわたりますし、引き継ぎ等多くの作業があり、毎回ヒアリングする度に忙しそうだと感じます。そんな仕事の多さに畏敬の念さえ抱きます。

そんな忙しい方を支えるために存在するのがSmartHRというプロダクトなのですが、 オブジェクト指向UIの特徴の1つである創造性を考えると、人事労務に必要なのは物事の新しいあり方を見出す創造性よりは、既存の業務をどれだけ迅速に終えられるかの効率性だと感じています。可処分時間は基本8時間しかないわけですし。

業務内の可処分時間でいかに煩雑な作業を早く終わらせ、個人にとってより重要な業務に取りかかれるか、そしてその会社に利益をもたらせられるかがSmartHRの役割だとも思います。

そうなってくるとオブジェクト指向UIの特徴を考えた時にそれらがSmartHRにおいて必ずしも正であるかどうかは私自身分からなくなってきました。

じゃあ結局どうすんねん?

結局ミクロ視点でソフトウェアを考えた時にタスク指向にするべきなのかオブジェクト指向にするべきなのかも考えるのが我々のお仕事のような気がします。

ではどうやってそれらを適切に選べるのか。それには主に以下の3点が考えられるような気がします。

1. 創造性

この場で言及する創造性という言葉は「物に対する価値を新しく見出すこと」と定義します。前述のdesigningの記事では以下のようにユーザーが創造性を見出すかについて言及しています。

先に対象となるオブジェクトを開示し、ユーザーがそのオブジェクトの全体感を把握した上で、工夫し、好きな手順で目的を達成する——この過程が実現されたことで、人はソフトウェアの世界において、自由と創造性を手にした。

オブジェクト指向UIであれば、ソフトウェアがデザイナーの範疇を超えた使われ方をされ、ソフトウェアとしての可能性が広がる、ということでしょうか。

創造性が必要ない、すなわちソフトウェアとしての可能性をあえて限定する必要がある場合は必ずしもオブジェクト指向UIであることはないのかもしれません。

2. 効率性

効率性はオブジェクト指向かタスク指向かを考える上で重要な観点になってきそうです。

上でも言及したとおり人事労務業務の背景を考慮した時に業務の効率性がどこまで求められるかを考える必要があります。それにともないオブジェクト指向であるべきかタスク指向であるべきかを考える必要はありそうです。

前述のImgburnでは、そもそもソフトウェアを使ってオブジェクトに行う操作が限られているのでタスク指向UIを採用しているのは納得がいきます。

3. 拡張性

拡張性はSaaSというビジネスモデルを考えた時に重要な懸念材料にはなるとぼんやり思っています。

小規模で永続型のソフトウェアであれば大きなバージョンアップの際に比較的構造の変化は許容できるように思います。ナンバリングは引き継いでもソフトウェアの構造が大きく変わるということの可能性は高いかもしれません。

ですが大規模で、細かい改善による変化が頻繁に起こりえるSaaSでは0から概念や構造を考慮する段階でも、ビジネスの拡大に伴い、データ(オブジェクト)の種類の増加等々、拡張した時にも破綻しないようにデザインすることが求められます。

従って設計の初期段階からオブジェクト指向なのかタスク指向なのかを吟味する必要があると思います。

創造性vs効率性の罠

今までの話では創造性と効率性がどうやらお互いに干渉してそうですが本当にそうなのでしょうか。

例えば人事労務の分野で革新的な業務プロセスの変化があった時、もしくは一個人の中で効率化を求めてプロセスに変化を求めた時などはタスク指向のUIでは対応することができません。

そうなると「この業務プロセスの変更可能性」からオブジェクト指向かタスク指向のUIかを探ることも出来そうです。

分かりやすい指標としては重要なオブジェクトの数の変更可能性だと思います。

ユーザーが取り扱うオブジェクトの数が増えそうであればあるほどオブジェクト指向UIの機運が高まります。

一方でオブジェクトの数が半永久的に固定であるのであればタスク指向UIを採用して効率性を追求することも良いかもしれません。前述のATMはその例ですね。

じゃあ実際どうやってんのよ

実際に他のアプリケーションを見てみると大抵のアプリケーションでオブジェクト指向UIとタスク指向のUIが混在しています。例えばオブジェクト指向UIの潮流の原点の1つとも言えるAppleのアプリケーションのUIでもそれは同じです。

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Twist好きなんだけど流行らない。

以前AppStoreに対してリバースモデリング的なことをしたこともあり割と分かるのですがオブジェクト指向が多めのUIです。各アプリケーション(オブジェクト)にインストールや削除、更新等の基本的な動作がありますし、プレゼントするといった動作があります。

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見せられないよ!

ですが上の画像ではどうでしょうか。画像中央の
・ギフトカードまたはコードを使う
・メールでギフトカードを送信
・Apple IDに入金

はタスクなのでタスク指向のUIと言えます。

これらをオブジェクト指向に置き換えれば「ギフトカード」→「使う、送信」等ができるはずですがそうはなっていません。これは推測ですがこれらのタスクは比較的恒常的でありかつAppleとしてもタスクに切り出すことにより効率性を高めコンバージョンに繋げてるのではないでしょうか。(推測です)

またギフトカードに紐づくCRUDを考えた時にCreate(使う)しかなく、オブジェクトとタスクが1対1の関係なので自ずとタスクのみになるという推測も出来ます。

結論

急な結論です。書くのがダルくなったわけではありません。

銀の弾丸と言われがちなオブジェクト指向UIは素晴らしいメリットもありますが、それがタスク指向のUIの欠点を示唆しているわけではないと思います。前述の建築家のクリストファーアレグザンダーの言葉を借りると

デザインはコンテキストとユーザーの間の形を探る行為

だとすれば、ユーザーと業務ドメインを考慮した時に適切な指向は何になるのか、それらは将来どうなり得るのかということを考えながらデザインをするのが一番だと思います!皆もこの本読んだ方が良いよ!終わり。

後日談

この記事は元々社内の情報共有ツールで出されたものなのですがそれを出した後の弊社のVPoPのadachiさんのコメントにははっとしました。

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何をそうだなぁと思ったかは皆さんもご自身でお考えください。それでは皆様良いクリスマスを。

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