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太陽みたいな SUN

ラスベガスのフラワーデザインスクールに通い始めて2週間。
「私のビジネスパスを使わせてあげるから、
自由に花市場で花を買って練習しなさい」と先生に言われて
この週末、喜び勇んで花市場へ行ってきた。

大好きな生花がたくさんある市場は、どれほど寒かろうが私の楽園。
エベレスト登頂隊も採用したという謳い文句の、
Columbiaのウィンターコートを着て冷蔵室へ入る。
冷蔵庫いっぱいに、オレンジやパープルの秋色のクレサンチマム、ダリア、赤い実のついたハイペリカンベリー、アメリカの花束の王道ローズも色とりどり並んでる。私の好きなユーカリだけでも、Baby、Sliver Dollar、Seeded、Diamondと4種類あるし、Foliage と呼ばれる葉物の品揃えも豊富だ。

「さあ、秋色の花束を作ろう」と勇んで、オレンジ色のカラーやマムピンクッションやプロテアを手に取った。新鮮な花を手にするだけで胸が高揚する。目をハートにしながら、それらをどさっとレジに乗っけると「それ、高いよ、大丈夫?」と心配そうに会計のおじさんが言う。聞くと、カラーは束で3000円するらしい。カラーだけで3000円なら、トータルはゆうに1万円を超えてしまう。それは確かに高い。高すぎる。

どうしようかな…と迷っているとレジの横で作業をしていた韓国系アメリカ人のおばちゃんが「あんた、なんで花を買うの?」と聞いて来た。

「家でフラワーデザインの練習をしたくて…」と言うと

「なんでそんな高い花で練習するのよ!」と一喝。

「しょうがないわね!私と一緒に来なさいよ、練習用の花束見繕ってあげるから」とグイグイ花の冷蔵室に入っていくおばちゃん。
私は言われるままに彼女の後をついていく。

「まずカラーコンビネーションを考えると、黄緑のマムをもう一種類足して…ピンクッションもプロテアもこれはプロになってから使うものよ。高いだけでしょ、もう!今は金魚草と菊で練習しなさい!」

と迷いなく花を選んで私の腕にどさどさ載せていく。
私は「なんて頼り甲斐のあるおばちゃん!」と見惚れながら彼女について歩いているだけだ。
お花のことを学んできたはずなのに、知識が一ミリも活かせてない。
ああ情けないったらありゃしない。

そうして鮮やかな手つきで彼女が見繕った花々は、確かにそれぞれの色味が調和していて、秋らしくて、個性もあって、どこかハッピーになるものだった。
これがプロの仕事か。プロになりたいくせに、完全に客目線で感動している。これではいけない。

「最後にガーベラね!これで練習した花束を人にプレゼントすることもできるわよ!」

彼女はさっさとガーベラのセクションへ足を運ぶ。
そこで私の目に留まったのは真っ赤なガーベラ。
元気で、艶やかで、キュートで。思わず微笑んでしまうような佇まい。
「これにします!」と私が赤いガーベラの束を掴むと
「いいチョイスね」と彼女は目を三日月にして笑った。

花が好きな人に悪い人っているのだろうか。
そんなことを思いながら、なんで全くの他人である私を助けてくれるのかと聞いてみた。

すると彼女「あなたJulieのところの学生でしょ?」と一言。
私の学校を知っているではないか。

「私は10年以上前にJulieの学校に通ってたのよ。それからベラージオ(めちゃ有名なホテル@ラスベガス)のフラワー担当として10年花を生けて、フリーになったの。花の勉強って大変でしょ?わかるわ」

とバシバシ肩を叩いてくる。

なるほど。彼女は先輩だったのか。

レジに行くと「よかったね」とおじさんがウィンクしてくれた。
会計は5000円なり。これで4、5個の花束が作れる。
はじめの花を選んだまま会計をしていたら、えらいことになっただろうな。おせっかいおばちゃん様様だ。

もしかすると彼女、すごい人かもしれないぞ…
そんなふうに、私の直感が反応していた。
彼女が圧倒的なスキルの持ち主であることは百目瞭然だったし、
スキルがある人には珍しいくらいに気さくで、お節介で優しいときた。
そんな人にはそうそう出会るもんじゃないし、
何より、先生がクラスで「ボランティアでもいいから花の勉強できる場所を探しなさい」と言っていたことを思い出した。
そこで、恐る恐る「あのー、私にアシスタントさせてもらいませんか?お給料はいりません。勉強させていただきたくて」と聞いてみた。

「もちろん来なさいよ!今は手が離せないから(ローズブーケをこの時点で5個作っていた。スピードは速いしフォームは完璧だった)今週の木曜日に電話して。場所と時間を教えるから。この業界は何より人脈よ。何かあったら私に連絡しなさいね」と彼女。花市場に降り立ったおばちゃんの外見をした天使かと思った。今日は最高にツイている。

別れ際、彼女が手渡してくれた名刺に目をやる。

「Sun」

彼女の名前、Sunっていうのか。本当に、太陽みたいな人だな。

そんなことを思いながら秋色の花束を抱えて家路に着いた。

*****
2022年1月19日追記:
2021年一番の出会いを振り返ると、
やっぱり彼女だな。と思い、再編集しました。
2022年も私の太陽おばさんと一緒に、
夜も眠れないバレンタインデー商戦を乗り切ろうと思います。






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