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2023/10/31 ヒョンビンはかっこいい

夫がちっとも起きないので、一体なん時に仕事に行くのかと問うと、今日は遅いという。暫くすると、おっほほ、と妙な声をあげて、「今日仕事休みになったー」と、足取りも軽くリビングにやってきた。

家にいる時間はほとんど体を縦にしない重力に逆らわない夫が、不審なほどに素早く着替えると、「出かけてくるわ」と言う。
「どこに行くの?」
「映画、観てくる、ヒョンビンの」
「えっ、ヒョンビンの映画やってんの!ヒョンビン カッコいいよねえ、ねえ、かっこいいよねえ」
「………」

夫はつい最近『愛の不時着』を観たばかりで、観ている間も、
「ヒョンビンが本当にかっこいい」
と私が度重なるヒョンビンへの賛辞を口走ると、意味不明の無言を貫いていた。
ヒョンビンの事をカッコいいと言ってはいけない罰ゲームでもやってんのかお前、というくらいの口の固さで、カッコいいと言わないのだ。『愛の不時着』のヒョンビンはどうやって観ても、どうしたってカッコ良過ぎだと思うのだが、夫は何故にそこまで、ヒョンビン カッコいい、に頷かないのだろうか。

夫は頑なにヒョンビン カッコいいに返事をしなかったが、
「職場の学生に、ヒョンビンに似ている学生がいる」
と続けた。それはどういう意味だろうか。
「じゃ、カッコいいの?」
「……」
「ねえ、ヒョンビンに似ているから やっぱりカッコいいわけ?」
「……」

本物のヒョンビンの事じゃなくても、返事をしないほどに意地を張るのは何故だ。

「そんなにカッコいいか?ヒョンビン」
暫くして夫がそう聞くので、
「そりゃあ カッコいいよ、スタイルもすごくいいし」

「ああ、スタイルはいいよな」
そう言いながら、部屋を出て行った。

何がなんでも、ヒョンビンの顔がカッコいいとは認めたくないの、何。
ひょっとしなくても、俺の方がカッコいいと思っている可能性は90%くらいある。

夕方帰宅した夫に、映画の感想を聞くと、結局観なかったそうだ。
夫が雑な夕食を作ってくれたのだが、案の定キッチンは家事が苦手な大学生男子の部屋みたいな惨状になっていて、(ああ、プラマイ0)と思った。
夫が料理をしてくれると、いつもそう思う。

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